自衛隊ニュース

ゲッキーのイラスト

シャングリラ会合に出席
大臣、OCEANの精神を提唱

写真=スピーチを行う中谷大臣(防衛省提供)


 5月30日から6月1日、中谷元 防衛大臣は、シンガポールで行われた国際会議「第22回IISSアジア安全保障会議」(通称シャングリラ会合)に参加した。中谷大臣は、期間中に2国間・多国間の防衛相会談を精力的に行ったほか「競争的世界における安定性の確保」をテーマにスピーチを行った。

 5月31日、第2セッションでのスピーチで、地域と国際社会の平和と繁栄の前提が大きく揺らいでいる中で必要なのは、OCEAN(One Cooperative E ffort A mong N ations:Perspective for the Indo‐Pacific)の精神であると提唱。「つまりインド太平洋のためという視点をもって、共通の価値と利益を共有し合う諸国(Among Nations)が、協力的な取組(Cooperative Effort)を通じ、シナジーを発揮して、一つ(One)の大きな取組としていく」と説明。「シャングリラ会合の参加国が、今こそ、OCEANの下で各国が手を携え、対話を重ね、『ルールに基づく国際秩序』の溶解ではなく回復をなし、アカウンタビリティの無視ではなく実現をすること、国際公共益の棄損ではなく増進を図っていくべきだ。そして、日本はその中心であり続けることを、ここにお約束する」と結んだ。

 中谷大臣は各国国防相と10回の会談を行ったほか、マクロン仏大統領等とも面会した。31日の日米豪比の会談後には共同声明を発出。フィリピンの防衛上の優先事項及び自由で開かれたインド太平洋を支えるため、同国へのインフラ投資は重要であり、これまでの日本製警戒管制レーダーの設置や米および豪の取組を歓迎するとともに、今後も航空状況把握、海洋状況把握及びその他の優先事項をより良く支援するため、各閣僚は安全保障協力を一層調和させることで一致したという内容を盛り込んだ。

ルクセンブルク国防相と会談

写真=中谷大臣とバッケス大臣


 5月28日、中谷元 防衛大臣は、ユリコ・バッケス ルクセンブルク大公国国防大臣兼交通・公共事業大臣兼ジェンダー平等・多様性大臣と防衛省で会談した。同国との防衛相会談は2007年に東京で行って以来18年ぶり。バッケス大臣は神戸市生まれで2006年に駐日ルクセンブルク大使館での勤務経験を持つ。両大臣は、欧州・太平洋とインド太平洋の安全保障が不可分であるという認識のもと、力または威圧による一方的な現状変更の試みに対して連携していくことで一致した。

 冒頭、中谷大臣は「ルクセンブルクは普遍的価値を共有する重要なパートナーであり、ルールに基づく国際秩序と自由で開かれたインド太平洋の実現に向けて連携を進めたい」と述べた。バッケス大臣は「日ルクセンブルク2国間だけではなく、多国間レベルでも防衛分野での協力を増大させる機会・ポテンシャルは高い」と期待感を示した。中谷大臣は、エストニア・ルクセンブルク・ウクライナが主導して2023年に立ち上げを表明した、IT支援のための多国間枠組「ITコアリション」における日本の具体的な支援内容について、最終調整中である旨を伝えた。

リトアニア国防相とも

写真=中谷大臣とシャカリエネ大臣


 同日、中谷大臣はリトアニアのドヴィレ・シャカリエネ国防大臣とも会談を行った。シャカリエネ大臣は昨年12月の就任後、インド太平洋地域での初の訪問国に日本を選んだ。2023年に両国の間で署名した覚書の下、サイバー分野やウクライナ支援等様々な分野で協力・交流が進められており、両大臣は引き続きこれらを推進していくことで一致した。

 中谷大臣は冒頭、「欧州・大西洋とインド太平洋地域の安全保障は不可分であり、日本と欧州の同志国との間で、お互いの地域の課題に対して関与を強化していくことは極めて大切だ」と述べた。シャカリエネ大臣は「日本が両国の防衛協力にとって非常に重要な、かつ戦略的な役割を果たすと確信している」と述べた。

 会談後、両大臣は共同記者発表を行った=写真。中谷大臣から以下の4つについて成果が述べられた。

1.サイバー協力‥今年6月下旬からリトアニアの地域サイバー防衛センターに防衛省職員を1名短期派遣

2.リトアニアが主導する「地雷除去コアリション」に対して、防衛省がウクライナ軍への教育支援として行う具体的な内容を最終調整中である旨伝達

3.防衛当局間協議の頻度を増やし、次回は本年末までに開催する

4.両国間の将来的な情報保護について議論

防大生、米国に4年間留学
陸・海・空士官学校に1名ずつ

写真=大臣から激励を受ける留学予定の3名(防衛省提供)


 防衛大学校(久保文明学校長)は、今年度から米士官学校に同校の学生を4年間留学させる制度を始めた。陸軍士官学校、海軍兵学校および空軍士官学校にひとりずつ送り出す。

 これまでの米国士官学校への留学は長くて4カ月程度。今回の新制度は、米国とのより密接なネットワークを構築することのみならず、若い時から国際感覚を涵養させることにより、将来、防衛力の抜本的な強化および同盟国・同志国との連携強化等に中心的な役割を果たせる幹部自衛官候補を育成することが狙いだ。

 留学するのは、和賀絢音学生(陸軍)、徳田凌学生(海軍)、興梠太一学生(空軍)の3名でともに本科2年生。3名は今月渡米し、4年後の5月末の卒業と同時に防大の卒業証書を授与されることとなる。その後幹部候補生学校に入校するが、同期より1年2カ月遅れで着入校となるため、これについては同期と同じ扱いになるよう各自衛隊で人事管理を検討中だ。

 6月4日、3名は防衛省を訪れ、中谷大臣に出国報告を行った。中谷大臣は「アメリカに行き、将来幹部になる方と一緒に勉強をするということは、大変貴重な機会です」と述べ、「他国の方々と切磋琢磨し『絆』を深めてもらいたい」と激励した。

 新しい長期留学制度は、新入生から希望者を募り、候補者を決定。令和8年度は、入試説明会等で周知を行った効果もあり、現時点で希望者は7年度よりも増加しているとのことだ。

自衛隊サイバー防衛隊司令・木村陸将補
「第4回ヴァンダービルトサミット」に参加

「同盟・同志国と技術、知見の共有が重要」

写真=ヴァンダービルト大学でパネリストとして意見を述べる木村陸将補


 自衛隊サイバー防衛隊司令の木村顕継陸将補は4月10日から11日までの2日間、米国テネシー州ナッシュビルのヴァンダービルト大学で行われた会議「Summit on Modern Conflict and Emerging Threats」の中で実施された「AI,Security,and Partnerships in the Indo Pacific」において、パネリストとして参加した。


 本会議の参加は、元米国サイバーコマンド司令官のポール・ナカソネ退役大将から直接招待を受けて実現したものであり、同氏がモデレーターを務めるパネルにおいて、オーストラリア通信局のカール・ハンモア氏とシンガポール軍デジタル情報サービス長リー・イージン少将とともに、AI技術の台頭が著しい昨今の情勢を踏まえたインド太平洋地域における同盟国等との協力促進について意見交換を行った。

 「インド太平洋地域においてAIや新技術を使っていかにより良いパートナーシップを構築していくか」との問いに対して、「AIとロボット技術は今後広域に展開した地域において、正確・迅速な作戦を行う上で極めて重要であり、AIとロボット技術をインド太平洋地域の同盟国及び同志国と共有することにより、相手国に対する優位性を確保することができる」と述べた。

 また、AIを利用したサイバー攻撃が巧妙化しているが、サイバー防御を他国と連携してどのように行っているか」との問いに対して、「自衛隊では、これまで他国との防衛交流及び2国間・多国間のサイバー訓練に参加してきたが、昨今のAIを活用したサイバー攻撃に対して、サイバー防御を行うことが困難になっている。そこで自衛隊ではサイバー状況の把握とサイバー攻撃を受けた時の正確・迅速な対応を可能とするサイバー運用プラットフォームの導入を行うこと。そして本プラットフォームにおいて、AIを活用すること及び導入で得られた知見を同盟国・同志国と情報共有を行っていきたい」と述べた。

 さらに、次世代のサイバー、インテリジェンス、国家安全保障の専門家に求められる要件に対する問いに対しては、戦略レベルから作戦レベルまでの取り組みを統合する必要があるため、広い視野と重要な焦点を見極める力を持ち、長期的及び短期的なビジョンを描いて全ての関係者の努力をつなぎ合わせることができること、最新技術に関する優れた知識やスキル及びそれらを活用する能力を有していること、充分な体力や忍耐力があることが必要と述べた。

 ヴァンダービルトサミットはオープンAIのCEOのサム・アルトマン等、米国の産官学から幅広い要員が参加しており、自衛隊のサイバーに関する取り組みについて理解を促進するとともに同盟国及び同志国との連携を強化するための貴重な機会となった。

紙面一覧
紙面一覧
close