自衛隊ニュース

百里、短SAM運用終了
32年間百里の空守り
KB‐SAMに任務継ぐ
写真=短SAM運用を完遂し、「T」のポーズをつくる第7基地防空隊隊員
平成5年4月以来、長らく百里基地の防空の任を担ってきた8式短距離地対空誘導弾(通称=短SAM)が令和7年5月、責を全うし役目を終えました。
短SAMは、基地抗堪化施策の一環として、携帯式地対空誘導弾(通称=携SAM)及び20ミリ対空機関砲(通称=VADS)とともに全国の基地防空隊に配備されました。
短SAMは、更新が進む基地防空用地対空誘導弾(通称=KB‐SAM)の前任の装備品で、その運用はKB‐SAMと比較すると、とにかく体力勝負の面があったと感じています。重い備品を持って走り回ったり、高所への昇り降りなど、訓練が終了する頃にはヘトヘトになることもしばしばでした。
特に歳をとってからの器材の展開訓練は若手に引きずられるような感覚で、訓練ブリーフィング時の編成を見ては一喜一憂(むしろ恐怖)したものです。
対空戦闘における情報のやり取りは無線機による音声伝達であり、目標情報は手持ちの航跡ボードに逐一記入し、レーダースコープの表示と照合する必要があります。
表示はブラウン管に「ありのまま(いかにもレーダー的な画面)」が映し出され、目標と障害物(地形、雲等)の判別や敵味方識別は、目標情報を基に判断することになります。
よって、目標情報を聞き逃すと対処が難しく、要撃失敗した場合、訓練終了後のデブリーフィングが懺悔(ざんげ)の時間となり、非常に憂鬱(ゆううつ)でした。カラーディスプレイに多種多様な情報が表示されるKB‐SAMとは隔世の感があります。
数多くのスイッチ類が操作パネルに並び、機能や使用法を覚えるまでは大変でした。(KB‐SAMもタッチパネルによる多機能ゆえに覚えることも多く、やっぱり大変ですが…)
総じて短SAMは、扱えば扱うほど自身の能力向上を実感できる器材であったと思います。
そんな短SAMですが、役目をKB‐SAMに引き継ぎ、終わりの時を迎えました。現役中、一度も戦火にさらされることなく静かに退役していくことは、我が国が平和であったことの証左であると考えます。
基地防空隊発足から基地防空の一翼を担ってきた短SAM。彼を「百里の空は短SAMが守った」という矜持のもと、その労をねぎらい、静かに松島基地等に送り出してあげたいと思います。(小黒 和樹曹長(第7基地防空隊=百里))
初、C130Hで体験搭乗
<百里基地>
写真=離陸するC130H
百里基地は5月24日、基地周辺住民及び募集対象者等を招待し、C‐130H輸送機(小牧基地・第1輸送航空隊所属)の体験搭乗を行った。
百里基地でのC‐130H体験搭乗は今回が初めてであり、1回に約60名が搭乗し、午前、午後の計2回フライトを行った。
当日の天候は曇りだったが、参加者は約1時間のフライトの間、機内での記念撮影や窓から見える景色を楽んだ。
フライト終了後、地上に展示された装備品(航空機及び特殊車両)の見学を行い、お土産を購入した参加者は、初めて乗ったC‐130Hの興奮が冷めることなく帰路についた。
入間つばさ会より広報看板
<入間基地>
写真=広報看板の横に立つ(左から)入間つばさ会理事、同事務局長、同会長、入間基地司令、中警団隊員、中警団副司令
入間つばさ会より6月6日、航空自衛隊入間基地に広報看板が寄贈された。寄贈された看板は基地東町門前のフェンスに設置され、通行する方々にもはっきりと見える位置にある。
青空を背景に、「夢は大空へ 宇宙へ」というメッセージと親子が航空機を見上げる姿が印象的だ。看板設置後、入間つばさ会武藤会長をはじめとした関係者と入間基地司令及び幹部による懇談の場が設けられ、今後の基地と同支部の協力関係について意見が交わされた。
入間つばさ会会長は「今回、基地の広報活動に貢献できる機会を得ることができました。今後は、募集広報支援基盤の体制確立にも貢献したいです」と話された。記念撮影とともに和やかな交流も行われた。
入間基地司令は「今回このような寄贈を受け大変光栄に思います。引き続き、お力添えを賜わりますようお願い申し上げます」と謝辞を述べた。
入間基地は今回の寄贈に感謝するとともに、さらなる一般広報及び募集広報支援活動の推進を図っていく。
「鏡ヶ浦クリーン作戦」完遂
<館山航空基地>
写真=清掃活動を終え記念撮影
館山航空基地海曹会(会長=第21航空群先任伍長・多田羅裕介海曹長)は5月30日、鏡ヶ浦をきれいにする会(館山市役所等)が主催する「鏡ヶ浦クリーン作戦」にボランティア参加した。
同作戦は例年春と夏に館山湾(別名=鏡ヶ浦)一帯で実施される清掃活動。館山航空基地も例年協力を行っている。
当日は時折雨粒の落ちるあいにくの天気だったが、隊員家族を含む約百名の参加を得て、砂浜等に残された空き缶・吸い殻等のゴミの回収を実施した。今後も館山航空基地は、地域活動に協力していく。
佐世保資料館を研修
<佐世保教育隊>
写真= 「くらま」操舵室を再現したブースで操舵する学生
佐世保教育隊(司令・井上貴嗣1海佐)は4月14日同15日、第23期一般海曹候補生課程、第33期自衛官候補生課程及び第21期自衛官候補生課程(女性)の佐世保史料館(セイルタワー)の研修を実施した。
本史料館は、佐世保水公社跡地にあった建造物の一部を修復及び新設されたもので、旧海軍及び海上自衛隊の史料等が保管されている。
史料館では旧海軍の史料や先人が残した思いなど、当時の状況や海上自衛隊創設から現在に至るまでの歴史を目の当たりにし、学生は大いに感銘を受けていた。また、操船シミュレーター及び護衛艦くらま操舵室を再現したブースも体験し、一足早い船乗り気分を味わっていた。
読史随感<第176回>
神田 淳
武道の日本文化
日本の武道を愛好する外国人が増えているようである。柔道は五輪競技ともなり、世界的なスポーツとなって久しいが、もとは、剣道、弓道、相撲、空手、合気道、薙刀などと同じ日本の武道である。マンガやアニメもクールジャパンとして世界に人気があるが、武道愛好者は武道にあるサムライの精神文化に魅せられるようである。ニュージーランド出身の武道研究家アレキサンダー・ベネット(関西大学教授)は、日本の文化輸出の中で最も成功したのは武道であると言い、武道の国際的な普及は、外交を通じて百年かけても得られない日本文化と日本人に対する敬愛の念を世界にもたらしていると言う。
身体の技だけでなく、精神性を重んじるのが日本武道の特色である。日本武道協議会は、武道とは「日本で体系化された武技の修錬による心技一如の運動文化で、心技体を一体として鍛え、人格を磨き、道徳心を高め、礼節を尊重する態度を養う人間形成の道」と定義している。武道の精神性をいくつか見てみよう。まず柔道であるが、嘉納治五郎は、「柔道は心身の力を最も有効に使用する道である。その修行は、攻撃防御の練習によって身体精神を鍛錬修養し、その道の真髄を体得する事である。是によって己を完成し世を補益するのが、柔道修行の究境の目的である」と言う。柔道は完全にスポーツ化し、本来の精神性が失われているという批判もあるが、嘉納治五郎の柔道に込めた精神は生きていると思う。
次に剣道であるが、日本剣道連盟は、「剣道は剣の理法の修錬による人間形成の道である」と定めている。剣道が精神性を重んじる武道で、普通のスポーツと異なると思われることの一つに、ガッツポーズの禁止がある。剣道で一本を取った後、ガッツポーズなどすると一本が取り消される。相手を敬う礼の精神に欠け、「残心」が無いと見なされる。「残心」とは、技を決めた後も心身ともに油断をしないことである。相手が完全に戦闘力を失ったように見えても、油断した隙をついて反撃が来ることもある。それに備え、技を終えた後も、くつろいでいながらも注意を払っている状態を一定時間保ち、完全な勝利に導く。
アレキサンダー・ベネット教授は剣道錬士7段(さらに居合道5段、薙刀5段)で、武道を極めたような人であるが、残心こそが武士道の真髄だという。勝負の結果がどうあっても、心身ともに油断しない。興奮しない。落ち込まない。平常心を保つ。ゆとりを持つ。節度ある態度をとる。相手を謙虚に思いやる。感謝さえする。これがすべて残心である。自分は人生の教訓はすべて剣道を通して得た。剣道で残心の重要性、武道が人間形成となることを身をもって知ったという。氏は日常生活に必要な残心をいくつか述べているが、例えば、話し合いでは結論を確認しておくことが残心であると言う。ちなみに、仕事の後片付けを怠ることは「残心ができていない」とされる。こうした「仕舞いをおろそかにしない」生活倫理を日本人は昔から重んじてきた。
ベネット教授は、武道の精神性と政治との関係も論じている。徳川家康は、柳生石舟斎の無刀で勝つ「無刀の位」に国の経営の要諦を見た。柳生宗矩は、一人の悪を殺して万人を生かす「活人剣」を説いた。また、剣豪小田切一雲は剣の極意は「相抜け」であると言う。死を覚悟した熟達の武者二人が戦えば、双方必ず死ぬ。それを互いに悟り、結果として交戦を見送る。これを「相抜け」という。ベネット教授は、これに「MAD(相互確証破壊)」を想起している。MADは、相手国に絶対的損害を与えるだけの核報復力を保持することによって核戦争を抑止する核による平和戦略。
生死を突詰めて到達した古人の武道精神の中に、徳川家康が喝破したように政治の極意があるかもしれない。
(令和7年7月15日)
神田 淳(かんだすなお)
元高知工科大学客員教授。
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii‐nihon.themedia.jp/)などがある。