自衛隊ニュース

ゲッキーのイラスト

ノーサイド
北原巖男

東ティモールASEAN加盟、初代駐日大使

 10月26日、本年のASEAN議長国であるマレーシアの首都クアラルンプールで開催された「ASEAN首脳会議」にて、東ティモールは11番目のASEAN加盟国となりました。2011年3月の正式加盟申請から14年7か月を要した同国にとって、歴史的な国を挙げての喜びの日となりました。

 当日、現地で開催された「日・ASEAN首脳会議」に出席した高市早苗首相に、マレーシアのアンワル・イブラヒム首相が最初に紹介した方は、ASEAN加盟を成し遂げたシャナナ・グスマン首相でした。独立回復闘争時代から東ティモール国民のリーダーであり、国父。二人は笑顔で温かいハグ等の挨拶を交わされました。そして、「日・ASEAN首脳会議」の席上、高市首相は日本国民を代表して、グスマン首相にASEAN加盟の祝意をお伝えしました。

 ASEAN加盟が決定した翌27日、東京では、駐日マレーシア大使を始めASEAN加盟国大使や各国外交団、中谷 元 「日本・東ティモール友好議連会長」(前防衛大臣)等、関係者を招いてASEAN加盟周知のレセプションが開催されました。主催者は、10月11日にお嬢さま(成人)を伴って着任されたばかりのマリア・テレジニャ・ダ・シルバ・ヴィエガス駐日東ティモール大使。ASEANメンバー国たる東ティモールの初代大使です。同大使は、限られた時間の中で周到な準備に努め、参加者に感謝と決意を伝え、初めてのミッションを成功裡に成し遂げられました。

 この機会に、ヴィエガス大使について、隊員の皆さん・家族の皆さん、本紙読者の皆さんに、少しご紹介させていただきたいと思います。そして、我が国が50年にわたり友好協力関係を維持し、重視して来たASEANの一員に、ようやくなったアジアで一番新しい小さな国、残念ながら未だ馴染みの薄い東ティモールについて、関心を抱いていただければと思います。

 日本は、2002年5月20日の東ティモールの独立回復と共に国交を樹立し、相互に大使を交換して来ています。ヴィエガス大使は、5代目の駐日大使ですが、初めての女性大使です。

 同大使は、前述のシャナナ・グスマン首相と同じ独立回復闘争の英雄の一人、(故)マ・フヌ氏の奥様です。24年間にわたる激しく辛い独立回復闘争の真っ只中にあって、頑張り貫かれた信念の方です。そして、独立回復後は、多くの人々に手を差しのべると共に、人づくり・国づくりに汗を流され、シャナナ・グスマン首相が党首を務めるCNRT党の有力女性政治家として活躍。これまで、内閣官房副長官や国民議会副議長等も務めています。

 (ちなみに、2025年版「世界のジェンダーギャップ指数ランキング」によると、調査した148か国中、日本の「総合順位」が118位であるのに対し、東ティモールは86位。「政治への関与」に関しては、日本は125位と東ティモールの76位に、大きくリードされています。また一例として、衆議院議員に占める女性議員の割合を見ますと、全465名中73名と、僅か15・7%に留まっています。他方、東ティモール国民議会(一院制)は、全65名の38・5%、25名が女性議員。その比率には2倍以上のひらきがあります。)

 ヴィエガス大使は、赴任されるまで国民議会の政党横断組織である「東ティモール・日本友好議連会長」として、議会サイドから両国関係の発展を支援されて来られました。人を魅了するお人柄の親日家です。駐日大使としての来日を心から歓迎したいと思います。

 更に、防衛大学校とのご縁も深い方であることに、皆さんは驚かれるかもしれません。筆者は既に10年近く、同大使とのご縁に恵まれています。不思議なご縁。実は、大使のご子息は、東ティモールの高校を卒業すると共に防衛大学校に5年間留学され、既に2020年3月に優秀な成績で卒業されているのです。在学中に日本語検定試験の難関N2にも合格。筆者と妻は、彼の卒業を祝して夕食を共にしましたが、彼の達成感に満ちた晴れやかな姿が逞しく眩しかったことを思い出します。彼は現在、東ティモールの国軍(F‐FDTL)の陸軍少尉として活躍中の前途有為な初級幹部です。

 筆者は、彼が防大在学中の東ティモール訪問時に、ご自宅にお伺いして、当時ご健在だった父親のマ・フヌさんと母親としてのテレジニャさんにお会いしています。そこには、遥か日本で学ぶ息子を心配し、ひたすら健康を願い、応援し、祈り続ける我が子を思う母親の姿がありました。その際に、彼女は、息子の防大留学については、既に2010年4月から防大留学を開始されていたシャナナ・グスマン首相の勧めを受け、彼を信頼して決断したこと、息子も張り切って防大留学にチャレンジしたことなどを話してくださいました。

 彼女に久しぶりに再会したのは、10月11日に成田空港に大使として到着されたときでした。

 これから、ヴィエガス大使は、防大が在る横須賀ご出身の小泉進次郎防衛大臣に対する表敬訪問・懇談を始め、防衛省・自衛隊の皆さんとの幅広い交流等を通じて、「女性・平和・安全保障(WPS)」への認知向上や推進に向けた連携、受託教育の拡大、自衛隊と国軍とのマルチやバイの共同訓練の実施、東ティモールにとって初めての政府安全保障能力強化支援(OSA)の速やかな実施等、新たな分野を含む一層緊密な関係発展に寄与されることを願って止みません。

 また、ご子息の母校・防衛大学校訪問され、久保文明学校長表敬もなされることと思います。2010年4月に、初めて東ティモール留学生を受け入れて以来、防衛省、防衛大学校当局の一貫した温かい受け入れに対しては、留学生を送り出す東ティモールサイドも真摯に応えていただかなければなりません。すなわち、大使には、東ティモール国防省・国軍に対し、国軍の将来を担う女性を含む若くて優秀な留学生の選考・派遣を強く求めて頂きたいと思います。

 民主国家・東ティモール国軍にとって、健全な社会人としてのマインドを有し、優秀な国軍幹部要員としての知識・技能を身に付けた人材育成は、焦眉の急です。

 防衛大学校の5年間留学をグスマン首相が勧める根拠は、ここに在ります。

  

北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事

紙面一覧
紙面一覧
close