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伝統を奏でる<陸自中央音楽隊>

第175回定期演奏会

写真=ラヴェル作曲「ボレロ」渾身の一撃


 6月7日、中谷元 防衛大臣臨席のもと、「伝統を奏でる。」をテーマに、陸上自衛隊中央音楽隊(隊長・志賀亨1陸佐)第175回定期演奏会がすみだトリフォニー大ホールで行われた。
 第1部の幕開けは、隊長が指揮する国歌「君が代」から、ファンファーレトランペットを使用した「祝典序曲Op・96」へとスピード感溢れるオープニングを展開。続く行進曲「キング・コットン」は、1895年ジョージア州アトランタで開催された博覧会のために作曲されたスーザマーチの代表作。そして第一部の後半は、柴田昌宜副隊長が指揮する「とこしえの声~いまここに立つ母の姿~」。先の大戦で散った特攻隊員の母への想いを綴った作品を演奏。そして防衛庁設置50周年記念曲として中央音楽隊が中橋愛生氏に委嘱した「科戸の鵲巣(じゃくそう)」を約20年ぶりに再演。
 後半の第2部は、NHK交響楽団首席トランペット奏者の菊本和昭氏をゲストに迎え、ベルト・アッペルモント作曲の「トランペット協奏曲」を演奏。菊本氏の色彩溢れる豊かなトランペットの音色は一瞬にして観客を魅了した。第2部の後半は、再び隊長がタクトを執るという斬新な進行のもと、「ガムサッカーズ・マーチ」を演奏。この作品は吹奏楽の小品ではあるものの、演奏上難易度の高い作品として知られるコンサートマーチ。そして最後は、ラヴェル作曲の「ボレロ」。イギリスのフィリップス・パークの編曲で、コンサートのみならず、CM、ドラマ、BGMなどで数多く使用されるクラシック界における不朽の名作。各楽器のソロが際立ち中央音楽隊の実力が顕著に発揮され迫力のあるエンディングへと誘ったことは言うまでもない。
 この日の司会はテノール歌手の大田翔さんと中音、東千尋2曹(クラリネット)の2人。アンコールは大阪関西万博のテーマソングである「この地球(ほし)の続きを」と「この国は(自衛隊創隊10周年記念選定歌)」を新アレンジで演奏しコンサートは締めくくられた。当選倍率約6・8倍にも上った本演奏会。志賀隊長は「次回も進化し続ける中央音楽隊をご堪能下さい!」と思いを語った。


第2師団音楽まつり
地元の3校をゲストに

写真=記念作品「開拓の詩」を初披露


 第2師団(師団長・大場剛陸将)は、5月24日に旭川市民文化会館で「陸上自衛隊第2師団音楽まつり」を開催した。

 同音楽まつりは、毎年5月に開催され、師団としてもっとも大きな音楽イベントであり、今年は旭川藤星高等学校合唱部、旭川東高等学校音楽部、旭川龍谷高等学校合唱部の3校を特別ゲストに迎え開催した。

 オープニングは、全出演者による行進曲「祖国」と「君が代」が動画をバックに演奏された。

 その後は、師団らっぱ隊による陸上自衛隊らっぱメドレー、各駐屯地太鼓チームによる迫力ある太鼓演奏、各駐屯地音楽同好会による合同演奏、ゲスト3校による合唱で盛り上がった。

 後段からは、第2音楽隊創隊50周年記念委嘱作品「開拓の詩」が初披露され、全出演者合同で「ハレルヤ!」とフィナーレでは「希望の歌~交響曲第9番~」を演奏し、約1時間30分に及ぶステージは鳴りやまない拍手のなか終演を迎えた。

 また終演後には、師団長から特に功績があった隊員に記念メダル、特別ゲスト3校と作曲家の田中先生には、記念品が贈呈された。

 第2師団は引き続き、様々な活動を通して「自衛隊と地域を結ぶ活動」を行っていく。

留萌でも

写真=ゲスト歌手(左)と共に


 留萌駐屯地(司令・小川隆宏1陸佐)は、4月13日に留萌市文化センターで「令和7年度駐屯地音楽まつり」を開催した。本まつりには第2音楽隊をはじめ名寄・遠軽・上富良野駐屯地音楽隊、旭川駐屯地音楽同好会と名寄朔北太鼓が演奏支援に駆けつけ、限られた時間で合同練習を重ね合奏の完成度を高めていった。また、ゲストとして北海道留萌高等学校吹奏楽部及び菅浩二氏(トランペット奏者)・佐藤絵里子女史(司会)・窪田みゆき女史(演歌歌手)が参加した。

 本まつりは、中西市長をはじめ多くの来賓と市民の方々が足を運び、アンコールを含めた全17曲の音楽演奏と太鼓演奏を披露した。留萌駐屯地音楽隊(隊長・第2中隊 田口2曹)及び留萌千望太鼓部(部長・本部管理中隊 宮崎3曹)は本まつりのテーマでもある「美音~地域とともに~」を体現するような美しく力強い演奏を会場に訪れた方々に届けることができ達成感に満ちた表情をしていた。

音楽隊に敬礼っ‼<第14回>
前陸上自衛隊中央音楽隊長 樋口 孝博

日本のなかのアメリカで

写真=華やかさを醸し出す、米国陸軍ヘラルドトランペッツ


 音楽隊がマーチング(野外ドリル)のパフォーマンスを行うと、観衆からの拍手は「良かった、良かった!」という感じが一般的です。しかし、米軍基地内でのアメリカンフットボールの試合に呼ばれたときの反応は驚くほどでした。ハーフタイムショーの演奏終了と同時に、観客席からは怒涛の歓声と指笛が我々に向けられるのです。拍手が鳴り止まないなか何度も声援に応えるドラムメジャーは、「生きていて良かった!」と言うほどでした。全く同じパフォーマンスをしても、米国の方々がこれだけ盛りあがるのは、何故なんでしょう?フットボールでテンションが上がっているのか、マーチングの国ならではの国民性なのか、頑張っている人を讃える心情に溢れているのか、とても興味深いところです。また、米軍の方々の前でコンサートをすると終了後にスタンディング・オベーションをされることが多いので、とても照れてしまいます。日本では起立しながら拍手をするという賛辞は少ないので、奏者にとっては光栄の極みとなります。この「拍手<歓声<喝采」という構図は感情の表れでもあるので、海外の人たちは気持ちをストレートに表現することに長けていると感じるときがあります。

 米軍の式典では、オープニングを飾る「スタンド・オフ」という独特のシーンがあります。米兵たちが整然と並ぶ前を、音楽隊だけがパレードして行事を盛り上げるのです。そして式典中、指揮者はコメントに合わせて演奏の合図を出さなければなりません。司令官登場のシーンや国歌など、英語の司会に合わせてタクトを振るのは、とても緊張感があるものです。しかし司令官のスピーチの内容はさすがに解りません。すると、スタンドの観衆がこちらを向いて拍手をしているではありませんか。後ろに立つ隊員から「隊長!紹介されてます!」と言われて初めて気づき、慌てて拍手に応えたこともありました。「今日は日本の音楽隊が華を添えてくれ、ありがとう…」との謝辞を加えてくださる気遣いには驚かされます。エレベーターの中で挨拶、会話中の輝く目、ボディランゲージ…。ホスピタリティを始めとする世界レベルの礼節や多くの常識を、米軍の方々から学ばせてもらいました。

 基地のイベントにも音楽隊は数多く支援しています。ボール・パーティーでのダンス音楽やサンクス・ギビングデー(感謝祭)での生演奏は、米国の方々にとってなくてはならないものだと強く感じました。また、年末のクリスマス点灯式も重要なイベントです。ゲートには大きなモミの木が置かれ、基地内の高いアンテナは派手にデコレーションされています。音楽隊はBGMを演奏するのですが、そこでの拍手はまばらなものでした。すると遠くから「キコ~ン カコ~ン」という音が近づき、人々はそちらに目を向けてしまいました。なんとその音は、大きな赤い消防車の鐘の音だったのです。車のへりにはサンタクロースが手を振りながら「フォーホッホ! メリークリスマス!」と声をあげています。その発想は実に驚かされました。米国の方々には、これくらいのサプライズをしないと歓声にならないのか! と思うひとときでした。

 私が勤務していたころの沖縄では、7月4日のアメリカ独立記念日を祝う「嘉手納カーニバル」という大規模なフェスティバルが催されていました。音楽隊は「幕開けにふさわしい華やかな演奏を!」と依頼されていたので、「ここは華やかな演奏で歓声に応えよう!」と練習を重ね、意気揚々と向かったのです。しかし特設ステージに到着してみると、人の姿が見えません。よくよく考えると、暑い沖縄の昼間に人が集まるわけはないのです。仕方なく誰もいない客席に向け2~3曲演奏しました。「トンテ~ン、カンテ~ン」とテントを作る金槌の喝采を受けながら。

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