自衛隊ニュース
音楽隊に敬礼っ‼<第30回>
前陸上自衛隊中央音楽隊長 樋口 孝博
マイク・パフォーマンス
写真=司会
コンサートやイベントでは、聴衆との橋渡し役となる司会者の存在は欠かせません。とくに音楽隊の演奏会は、音楽ファンのみならず全ての方々を対象にしていますので、曲を紹介しながらコンサートの流れをつくる司会者の存在はなくてはならないものです。
司会者には幾つかのタイプがあります。曲のウンチクを語る解説者タイプの人。流暢なフレーズで聴衆を導くナビゲータータイプの人。また、野外やファミリーコンサートではイベント系の司会者が最適です。とはいっても、音楽隊には司会を専門とする隊員はいませんので、声が良く司会者としてのセンスがありそうな隊員たちを募って教育を行うこともあります。何しろ楽器が演奏したくて入隊した隊員たちばかりですから、マイクを持って人前に立つなんて嫌がるもの…。と思いきや、これがカラオケの影響なのか? 司会を上手にこなす隊員が多いのには驚かされます。また、司会者は来場者からの注目を集める存在ですので、聴衆の視線や拍手に耐えうるステージ度胸も必要です。そして話す言葉は音楽隊長の代弁ともいえますので、適切な言葉を選んで話さなければなりません。
私が入隊して間もなく司会の隊員が不在になってしまったため、急遽司会を任されることになりました。デビューは桜満開の野外コンサート。ステージの前には、お弁当を広げたご家族連れが和やかな雰囲気で耳を傾けています。マイクを手にした私は開口一番「みなさんこんにちは! おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは~!」と、明るく楽しく司会を進めていきました。しかし終了後、古参の隊員から「君の喋りは軽すぎる。中央音楽隊としての重みがない」とのお叱りを受ける羽目に…。それでも上官のウケは良く、その後のツアーでも司会をすることになってしまいました。
当時「ヘリウムガス」の入った、声を高く変える風船が流行っており、街頭コンサートでは風船の中身をたっぷり吸って話すことを試みました。すると声が…。早口の子供みたいになって…。「海は広いな、大きいな《海のメドレー》です! どうぞ‼」と、勢いある甲高い声が出てしまったのです。会場は大爆笑。隊員たちも大笑いとなって、しばらく演奏できないほどでした。コンサートの終了後、そのヘリウム風船はすぐに売り切れてしまったそうです。
つづく高校での芸術鑑賞会では、指揮者の隊長から袖口で、「次のチャイコ(序曲1812年)は、最初に曲のウンチクを話してくれ」、と言われたので一計を案じてみました。隊長が指揮を始めると、ステージ裏の陰マイクで「ヒュ~、ヒュ~(鼻息)。ときは1812年、(ヒュ~、ヒュ~)。ナポレオン率いるフランス軍は…、冬将軍に悩まされながらも攻めいったのだ
?!
」との語り口を演奏に重ねました。スピーカーから聞こえてくる風の音とアドリブ口調に、終了後隊長から怒られたのは言うまでもありません。
そういったパフォーマンスは若い頃の話しで、自分が音楽隊長にもなると謝辞を含めてアンコールの前にマイクを持つことがよくあります。そこでのコメントは、会場全体がほのぼのするような内容を考えていました。「内輪の話で恐縮ですが、今日のステージが最後になる隊員がおります」と、定年を迎える隊員を紹介したときは、聴衆の方々からも暖かい拍手が送られ感動のシーンが生まれました。また、「今日は特別に、私たちから会場の皆様にプレゼントがあります。私たちの生写真…。それでは、カメラを起動してください!」と、アンコールで写真撮影のコーナーを設ければたいへん喜ばれますし、SNS発信を通じたPRにもなります。
コンサートやイベントでは、演奏や演出といったパフォーマンスに神経を集中させますが、マイク・パフォーマンスもステージを大きく左右します。そのため私自身も、演奏会当日の楽屋では指揮の譜面を見る代わりに、慎重に作ったコメントの練習ばかりしていたのでした。