自衛隊ニュース
新たな横断歩道
運用開始<入間基地>
写真=新たな横断歩道を渡る児童たち
入間基地は8月25日、通学路を短縮し児童の負担軽減を図るため、稲荷山宿舎と稲荷山公園の間に、歩行者用信号機及び横断歩道の設置を実現した。
修武台宿舎から入間川小学校間における通学路について、小学生が通学するには距離が遠く、交通量の多い道路を歩行することから長年児童に負担を強いていた。
令和6年9月に、狭山市長、狭山市議会議長、狭山警察署長及び入間川小学校校長へ、同年12月に、埼玉県警察本部交通部長へ、それぞれ入間基地司令より通学路に係る要望書が手交された。
令和7年4月、狭山警察署と狭山市役所で現地調査を行い、埼玉県警本部により設置が決定され、8月完成に至った。
歩行者用信号機及び横断歩道の設置によって、通学路は約1・0キロ、15分間短縮した。児童やその両親、また地域の住民から感謝の声が多数届いた。
入間基地司令より、「今回の設置に尽力いただいた狭山市長、狭山市議会議長、埼玉県警察本部交通部長、狭山警察署長及び入間川小学校校長に対し、大変感謝申し上げる」とのコメントがあった。
入間基地は、今後も隊員とその家族の生活環境と安全を向上させるべく引き続き様々な改善に取り組んでいく。
ノーサイド
北原巖男
共に新たな日本の一歩を
「私は、日本と日本人の底力を信じてやまない者として、日本の未来を切り拓く責任を担い、この場に立っております。今の暮らしや未来への不安を希望に変え、強い経済を作る。そして、日本列島を強く豊かにしていく。世界が直面する課題に向き合い、世界の真ん中で咲き誇る日本外交を取り戻す。絶対にあきらめない決意をもって、国家国民のため、果敢に働いて参ります。・・・国家国民のため、政治を安定させる。政権の基本方針と矛盾しない限り、各党からの政策提案をお受けし、柔軟に真摯に議論して参ります。」
10月24日に行われた第219回国会における高市早苗内閣総理大臣の所信表明は、冒頭、この発言から始まりました。(筆者抜粋)
そして、経済・財政、社会保障、人口政策・外国人対策、外交・安全保障等々についての所信を、力強く訴えました。その内容についての受け止め方は、人によって異なると思いますが、高市首相の意気込み・決意は、筆者にも伝わって参りました。
この中で、「外交・安全保障」について、高市首相は、2022年12月の「国家安全保障戦略」(概ね10年間の期間を念頭)と「国家防衛戦略」(概ね10年の期間を念頭)及び「防衛力整備計画」(概ね10年後の自衛隊の体制を念頭に、5年間の経費の総額・主要装備品整備数量等、我が国が保有すべき防衛力の水準を示す)の安全保障に係る「三文書」を策定以降、新しい戦い方の顕在化など、様々な安全保障環境の変化も見られることから、我が国として主体的に防衛力の抜本的強化を進めることが必要であると訴えています。このため、「国家安全保障戦略」に定める「対GDP比2%水準」については、補正予算と合わせて、今年度(2025年度)中に前倒して措置を講じる旨を明言。(これまで、2%に引き上げる目標時期は2027年度。2年前倒しとなる。2025年度当初予算ベースで、対GDP比は1・8%)。また、来年中に「三文書」を改定することを目指し、検討を開始すると表明しました。更に、防衛力そのものである防衛生産基盤・技術基盤の強化、防衛力の中枢である自衛官の処遇改善にも努めるとしています。
なお、高市首相が誕生する前日の10月20日に締結された自由民主党と日本維新の会の連立政権合意文書に明記されている、例えば、「次世代の動力を活用したVLS搭載潜水艦の保有に係る政策を推進する」、「令和八年通常国会において防衛装備移転三原則の運用指針の5類型を廃止」(現在、輸出できる装備品は、救難・輸送・警戒・監視・掃海の5類型に限定されている)等については、所信表明の中での具体的な言及はありませんでした。
しかし、小泉進次郎防衛大臣は、10月22日の防衛大臣就任会見時、記者から潜水艦の動力として原子力を活用する考えや5類型撤廃の意義等について質問を受けた際、それぞれ次のように応答しています。(筆者抜粋)
・原子力推進の潜水艦について、
「現時点で、潜水艦の次世代の動力の活用について決定されたものはありませんが、我が国の抑止力を向上させていく上では、VLS搭載潜水艦の開発を含む、将来の能力の中核となるスタンド・オフ防衛能力の強化は不可欠であります。その面で言えば、あらゆる選択肢を排除せず、抑止力・対処力を向上させていくための方策について検討して行きたいと考えています。」(原子力を自衛艦の推進力として使用することについては、昭和40年代の科学技術庁長官や防衛庁長官による累次の国会答弁、いわゆる「原子力推進の一般化論」が想起される。すなわち、一般に船舶の推進力として原子力が用いられるようになった場合には、自衛艦がこれを推進力として使用しても、「原子力利用は、平和の目的に限り」と定めている原子力基本法に違反せず、差し支えない。)
・5類型の廃止について
「我が国が、戦後最も厳しく複雑な安全保障環境に直面していることを踏まえ、防衛装備移転をさらに推進して行くことが必要と考えており、今般の自民党・日本維新の会の合意を踏まえて、防衛省として、関係省庁とともに検討を行っていく考えであります。・・・今の日本を取り巻く安全保障環境の厳しさを考えたら、政策を強化する上で早すぎるという、そういった批判は当たらないほど、置かれている状況は厳しいというのは多くの方々にご理解いただけるのではないかというふうにも思いますし、ご理解いただけるよう防衛大臣として説明を尽くす、そして必要な政策は果断に前に進めていくと、そういった思いで私は総理とよく相談して進めたいと思っています」(令和7年度防衛白書は、「政府として、防衛装備移転にあたっては国連憲章を遵守するとの平和国家としての基本理念およびこれまでの平和国家としての歩みを引き続き堅持するとの方針に変わりなく、これまで同様、厳正かつ慎重に対処する方針である。」と記述している。)
防衛省・自衛隊の皆さんは、我が国を取り巻く国際情勢・国際軍事情勢等を踏まえながら、正にタイマツを掲げた小泉防衛大臣を先頭に、暗夜の坂道を一歩一歩登って行くがごとく、所信表明等に掲げられている重要案件・懸案事項を遅滞なく確実に実現するため、「内幕一体」となって、しっかり検討し、その必要性・緊急性・具体的な手順・財源の確保等について、国民の皆さんの疑問や、あるいは不安にも答え、理解と支持を得ていかなければなりません。真にタフな任務でありますが、是非、頑張って頂きたいと思います。
既に、防衛省では、所信表明がなされた10月24日夕方、小泉防衛大臣を本部長とする「防衛力変革推進本部会議」を設置・開催。あらゆる選択肢を排除せず、これまでにないスピード感を以て柔軟かつ積極的な議論・検討を行い、決断して行くスタートを切りました。
国会では、衆参両院共に少数与党の中、大変厳しい国会運営・国会審議が予想されます。丁寧で透明性を持った分かり易い説明に努め、投げかけられる質問・疑念等には、どこまでも真摯に、粘り強く対応して行かなければなりません。
他方、多党化の中、野党も、ただ批判のための批判に留まるのではなく、積極的・建設的な議論の展開に努め、与党に対案をぶつけるなどして、進むべき道を共に創り上げて行くといった責任政党としての姿勢も必要です。
高市首相は、所信表明の結びに、聖徳太子の「十七条の憲法」の第十七条を引用した上で、「古来より、我が国においては衆議が重視されてきました。政治とは、独断ではなく、共に語り、共に悩み、共に決める営みです。私は、国家国民のため、各党の皆様と真摯に向き合い、未来を築いて参ります。」と述べ、「どうか皆様、共に日本の新たな一歩を踏み出しましょう。」と呼びかけています。
国民の目に見える形で、このようにして踏み出して行く日本の政治を、心から求めたいと思います。
(ご報告)
10月26日、本年のASEAN議長国であるマレーシアの首都クアラルンプールで開催されたASEAN首脳会議にて、東ティモールは、11番目のASEAN加盟国になりました。
現地で、高市首相と東ティモールのグスマン首相が、親しくハグしながら初対面の挨拶を笑顔で交わしている様子がテレビで報じられました。何かとても嬉しくなります。
日本は、2009年3月に来日したグスマン首相と会談された麻生首相が、同国の円滑なASEAN加盟支持を表明して以来、一貫して加盟を支持し必要な支援を行って来ました。
新たなASEANメンバー国となった東ティモールの一層の発展とTOO LATEにならない我が国の対東ティモール外交の展開・両国間関係の益々の強化を願って止みません。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事
音楽隊に敬礼っ‼<第22回>
前陸上自衛隊中央音楽隊長 樋口 孝博
武道館での音楽まつり
写真=2022年のステージ
「自衛隊音楽まつり」は1963年に東京体育館(旧)で開始され、毎年11月の自衛隊記念日にあわせて日本武道館で行われるビッグイベントです。1日に2~3回の公演を数日間行うのですから、出演するのがいくら自衛官といってもそれは体力との戦いになります。
この「音楽まつり」に感化を受けて入隊する隊員も多く、私自身も高校生の時に観たステージに魅了されたのが入隊のきっかけでした。「100人の《トランペット吹きの休日》」や「50人のスーザ回し」といった迫力溢れるドリル演奏に仰天し、シンクロされた和太鼓演奏や防衛大学校儀仗隊の演技には心を奪われました。数百人が奏でるステレオ演奏、照明を駆使した煌(きら)びやかなステージ、アイドル歌手や宝塚スターのゲスト出演…。大音響が肌と脳に刺激と快感を与えてくれる、当時の静かな日常からは想像できない華やかなイベントでした。21世紀になると、新たな開催場所として『埼玉スーパーアリーナ』での実施も検討されましたが、〝堀の内での実施に意義がある〟との上部指導によって撤回され、現在も日本武道館で行われています。
「これだけのイベントをつくるには、どれだけ練習するのですか?」とよく聞かれるます。これは難しい質問で、1週間でもあり1か月、そして1年以上でもあるのです。あれだけ統制のとれたステージをつくり上げるのは一朝一夕にできるものではなく、音楽隊員として過ごす日々の行動が基本になっています。パレードや儀仗といった、数年に及ぶシンクロ動作の経験があるからこそ、わずかな期間で仕上げることができるのです。以前は身体に覚え込ませるほどの反復練習をしていましたが、多忙な現在では充実したプランで積み上げるしかありません。そこには優秀な指導部の統率と、有能なプレイヤーたちの集中力も必要になってきます。
出演する音楽隊は、まず地元で単独のドリルをつくります。本番の10日ほど前には参加者たちが朝霞駐屯地に集まり、自衛隊体育学校の体育館で合同の訓練に入ります。これほどのビッグステージですから、演出には民間の手も借りなければなりません。特に最後の1週間は全体の流れが重視されるので、出演者の集中力はすさまじいものといえます。そして前日に武道館入りして音響・照明、スクリーンの映像を交えた最終リハーサルとなります。
ところで、世界各地には「ミリタリー・タトゥー」と呼ばれる同様の軍楽祭があるのをご存じでしょうか? 各国の軍楽隊が参加し、国際交流を深めるこの催しは世界中で行われており、「自衛隊音楽まつり」はアジアで最も長い歴史を持つものとしてヒットします。旧前にあったアイドル歌手などのゲスト枠に、世界各国の軍楽隊が登場するようになってきたため、現在では「ミリタリー・タトゥー」のカテゴリーに入るといえるでしょう。
1996年には、アメリカ合衆国が誇る軍楽隊〝米国海兵隊ドラム&ビューグル・コー〟が「音楽まつり」に参加しました。赤いコスチュームをまとった統制美や、フロントベルでのサウンドは洗練されており、その威厳に満ち溢れたパフォーマンスは聴衆のみならず全国の音楽隊員たちにも衝撃を与えました。この米国海兵隊を間近に見たすべての人が〝音楽隊の本質〟に気付き、それまでの「祭り」的な雰囲気から「ミリタリー・タトゥー」の様相へと変化させていったのかもしれません。そして近年は世界各国の軍楽隊が、個性あふれる演奏・演技を披露して国際交流の一端を担っています。国内では滅多に見ることのできない海外の軍楽隊に触れることができるのも、「音楽まつり」の魅力のひとつといえるでしょう。
コロナ禍後に開催された2022年の「音楽まつり」では、高校時代に武道館の客席でトキメいていた私が、フィナーレの合同演奏で指揮台に立たせていただきました。60年以上の歴史を持つ「自衛隊音楽まつり」は、世界に誇れる日本のイベントに違いありません。