自衛隊ニュース

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米国大統領顧問が中国情勢について講義

<教育訓練研究本部>

熱弁をふるうメンディス博士


 10月23日、陸上自衛隊教育訓練研究本部(本部長・廣惠次郎陸将=目黒)は、幹部高級課程(AGS)受講中の学生に対して、今年3月にバイデン大統領とハリス副大統領・ホワイトハウスにより任命された米国総務省の国家安全保障教育委員会の大統領顧問Dr.Patrick Mendis(パトリック・メンディス博士:台湾国立政治大学およびポーランド・ワルシャワ大学客員教授)による講義を行った。

在日米軍と自衛隊の幹部に教育も

 メンディス博士は1960年スリランカ生まれ。高校在学中に交換留学で渡米するが、母国で内戦が起きたため米国ミネソタ州民の養子になった。ハーバード大学等で教育を受けた後、NATO司令部や米インド太平洋軍司令部で軍事学の教授を務めたほか、農務省、国防総省、エネルギー省、国務省で勤務した経験を持つ。また、米空軍三沢基地で米軍と自衛隊の幹部に教育を行い、岩国、佐世保、横田、横須賀の在日米軍基地を訪問した経験もある。3度目となる今回は「東シナ海からインド洋に至る中国の壮大なビジョン」と題して、中国情勢について講義を行い、ウクライナ戦争、中東情勢、米国大統領選挙についても話が及んだ。

「戦わずして勝つ」

ミッドライフ戦略を提唱

 メンディス博士は、中国による台湾・南シナ海からインド洋・スリランカ、そしてインド・ヒマラヤをまたいだ海洋戦略を「ブルードラゴン戦略」、空域や宇宙・サイバー空間での戦略を「鳳凰戦略」と名付け、2つの戦略をもってこの地域における勢力の拡大を図っていると主張。また、中国が「戦わずして戦争に勝つ」戦略を長期的にしかけているとし、これを「Military(軍事)」、「Intelligence(情報)」、「Diplomacy(外交)」、「Legal(法律)」、「Identity(アイデンティティ)」、「Financial(金融)、「Economic(経済)」の7つの頭文字をとって「MIDLIFE(ミッドライフ)」戦略として提唱、世界各国で認知戦を通じて圧力をかけ、自国に有利に働くよう誘導していると警笛を鳴らした。最後にメンディス博士は、中国が世界各地で行っている活動は単独の事象ではなく全てが繋がっていると強調した。

学生には「よく考えて行動して」

 学生からは「中国の戦略の分析において『総合的、包括的な視点での評価』の重要性を認識できた」、「米大統領選挙の結果が今後の世界に与える影響の大きさを再認識できた」等の感想が聞かれた。

 講義後、メンディス博士は報道陣のインタビューに応じた。学生について「自身の職種に関する事から国際関係までよく学んでいて、非常に優秀だ」と述べ、「なぜ自衛隊を選んだのか、何のために戦うのか。それはきっと国と自由を守るためであり、日米で共通していることだと思う。自由を守るために、よく考えて行動してほしい」とメッセージを贈った。

 ※メンディス氏についての詳細はこちら www.patrickmendis.com

第12回西太平洋海軍シンポジウム
次世代海軍士官短期交流プログラム

<海自幹部学校>

27カ国から若手士官31名が参加

 海上自衛隊幹部学校(学校長・江川宏海将)は、10月8日から17日までの間、「第12回西太平洋海軍シンポジウム(WPNS)次世代海軍士官短期交流プログラム(STEP)」を開催した。

 WPNS STEPは、インド太平洋諸国等から次世代の各国海軍を担う海軍士官を招いて行う国際交流プログラムであり、参加各国の海軍士官に対し、我が国の安全保障、防衛政策及び歴史・文化に対する理解を促進するとともに、参加者相互の理解と、多国間協力を推進することを目的として、平成12年から開催しているものである。今回は、WPNS加盟国のみならず、南アジア、中東及び欧州から、27カ国31名の海軍士官が参加し、海自幹部学校指揮幕僚課程に在籍する陸海空自衛隊の幹部学生33名と2週間にわたり討議や研修等を行った。

 参加者は、自国の安全保障環境や海軍の活動等を発表し、相互理解を深めたほか、我が国の安全保障環境、防衛政策及び自衛隊の活動に関するブリーフィングや、横須賀での艦艇見学を通じ、我が国と海自への理解を深めた。

海軍協調の礎に

 討議では、「気候変動」、「信頼醸成」及び「人材育成」といった各国海軍が直面する共通の課題をテーマに、海軍間協力のあり方について活発な議論が交わされた。参加者は、討議を通じて、互いの考え方や価値観の違いを受入れ、尊重し合える関係を築くとともに、海軍間協調の意義について学ぶ等、信頼醸成に大きな成果を挙げた。さらに、都内研修を通じ親交を深めた。

 閉会に際し、江川学校長は「法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序を実現するためには、各国の協調が不可欠であり、本プログラムを通じて醸成された相互理解が海軍協調の礎になる」と述べ、各国海軍士官一人一人に参加証書を手渡すとともに、それぞれの積極的な取組みに対し謝意を表した。

 本プログラムに参加する海軍士官の多くは、各国海軍の代表として選抜された優秀な士官であり、これまでの参加者の中には、自国の枢要な立場で多く活躍している。このプログラムは、次世代の海軍を担う若手士官に対し、国際社会で活躍するための有益な機会を提供するとともに、グローバルに活動する海上自衛隊にとっても同盟国・同志国の連携の強化に寄与し得る戦略的意義を有するものである。


機略縦横(85)

感謝

第2特科団最先任上級曹長准陸尉 柏木 陽


 第2特科団が創立され8カ月が経過しました。西方特科隊から引き続き特科団初代最先任を拝命し、最先任としては3年目となります。

 これまで指揮官に随行する以外も、単独で現況把握や訓練の確認等現場へ進出する機会を努めて多くする様に心掛けました。理由は2つあり1つ目は話で聞くよりも自分の目で見ることでより正確に現状を把握できるため、2つ目は現場に行く事で直に顔を合わせた状況で指揮官の企図や、最先任としての思いを伝え、また彼らの考えや声を聴く事ができるからです。

 団隷下の多くは離島を含む九州各地に点在しており、自分が各地の隊員と接する機会は限られます。だからこそ現場への進出を大切に考えています。

 その際、部隊や個々の任務の重要性と共に必ず「いつも頑張ってくれてありがとう」を日々懸命に勤務してくれている隊員へ心からの感謝を込めて伝えています。感謝の気持ちを持つ事は相手だけでなく自分もポジティブになる、幸福感を得られる等の様々な効果があり、良好な人間関係も構築できるそうです。隊員が互いに感謝の気持ちを持ち認め合う事で雰囲気も良くなり、信頼が生まれ団結の強化や服務意欲向上に繋がると思います。

 南西防衛の要たる我が第2特科団隊員に「感謝」の心が芽生え、より強靭な部隊となれる様に最先任として引き続き牽引して行きます。


読史随感<第162回>
神田 淳

説明責任(アカウンタビリティ)について

 政治をはじめ企業や医療など、様々な場面で「説明責任(アカウンタビリティ)」という言葉がよく使われるようになった。説明責任(英語:accountability)とは、政府、企業、団体、政治家、官僚などの、社会に影響力を及ぼす組織で権限を行使する者が、有権者、株主、従業員といった直接的関係者に、また消費者、取引業者、銀行、地域住民などの間接的関係者に、その活動や権限行使の内容と結果の報告をする必要があるとする考えをいう。

 政治における説明責任は、民主主義の根底に存在する。代議制民主主義には、有権者を起点として、政治家、官僚へと仕事を委ねる関係が存在し、これを「委任の連鎖」と呼ぶ。有権者から政策決定を委ねられた政治家、及び政治家から政策実施を委ねられた官僚は、委ねた人々の期待に応えた行動をとらねばならない。そのような行動をとっていると説明できる状態を「説明責任(アカウンタビリティ)」が果たされているという。「委任と説明の連鎖関係」が、代議制民主主義が機能する根本条件である。

 代議制民主主義は間接民主主義とも言われるが、「間接」は単純なコミュニケーション以上の内容を含む。国民から政治家への委任は、国民の幸福のための良き政治の委任であり、そこに政治家の高い見識、熟慮、良き政策の決定及び実行力が期待されている。政治家から官僚に対する委任も、官僚の高度な専門知識に基づいた実際的な、間違いない政策具現化と実施が期待されている。そのような委任を受けて政策を作り決定する政治家は国民に、これを具現化して実行する官僚は政治家と国民に、説明責任を果たすことが求められる。

 説明責任の考えはアメリカで生まれ、日本に定着した経緯からわかるように、日本の伝統文化から自生した考え方ではない。日本社会には、自分のやったことを言葉で説明することにあまり重きを置かない傾向がある。結果がすべてであり、不言実行をよしとする。特に言い訳は好まれない。言い訳には必ず自己弁護や自己正当化が伴い、真実から遠ざかる。昔の武士は、言い訳を一切しなかった。そして至誠は言葉を超えて通じると信じた。自分のやったことの言葉による説明は言い訳に堕す可能性があるのを警戒した。

 私は1970年から1998年まで旧通産省に奉職したが、この時代、説明責任という言葉はなかったと思う。あったのかもしれないが、そうしたことを意識して仕事をしたことはない。私の深く尊敬するさる外務官僚(故人)は、メモワールなど書いてはならないと言っていた。官僚としての業績は実際にやった仕事に尽きる。それをメモワールとして残す(世間に示す)必要など全くない、と。

 しかし今改めて、政治家、官僚の説明責任は非常に重要だと思う。ただその運用について改善すべきと感じるものもある。一つは野党が政府に説明責任が果たされていないと言うが、説明されたものを拒否し、理解しようとせず、説明責任を権力闘争の手段に使っていると感じることがある。もう一つは、国(議会と政府)は国民が好まないことでも、必要な政策を掲げ、決め、実行しなければならず、そのため入念な説明をすべきだと思うが、これがなかなかなされない。日本国民は、耳ざわりの良いことばかり言う政治家よりも、厳しいが必要な正しいことを言う政治家を理解し、そうした政治家を選挙で選ぶ見識をもっていると私は思うのだが。

(令和6年12月1日)


神田 淳(かんだすなお)

 元高知工科大学客員教授。

 著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii‐nihon.themedia.jp/)などがある。


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