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音楽隊に敬礼っ‼<第17回>
前陸上自衛隊中央音楽隊長 樋口 孝博

音楽隊のテレビ出演

写真=大晦日の中継放送


 皆さんは、表彰状の授与や勝者を称えるときによく演奏される《得賞歌》という曲をご存知でしょうか? 以前この曲をテーマに、中央音楽隊がテレビ取材を受けたことがあります。曲は〝音楽の母〟と称されるヘンデルの《見よ、勇者は帰る》という合唱曲がもとになっているという、音楽隊の生演奏を交えたとても興味深い取材となりました。しかし、オンエアされたのが早朝であったため、その後話題に上ることはありませんでした。逆に東日本大震災のあと、津波で渡せなかった進級証書を幼稚園の先生が園児に差し出したとき、東北の音楽隊がこの曲をサプライズ演奏しました。「自衛隊の災害派遣は、心のケアにまで及びます」と、池上彰氏によって解説されたそのテレビ放送は大反響を呼びました。

 今から40年前、現在でも放送中のクラシック系音楽番組「題名のない音楽会」に、歴史あるトルコ軍楽隊〝メフテル〟と中央音楽隊が共演したことがあります。《君が代》ほかの単独演奏後、合同でトルコ共和国の初代大統領を讃えた曲などを演奏し、和やかな雰囲気のステージが放送されました。メフテルの伝統的な衣装と楽器パフォーマンスは、当時の音楽隊員に大きな刺激を与え〝にわかメフテル〟が各地で結成されたほどです。

 2005年の夏に放送された『FNS25時間テレビ』では、「戦後60周年平和祈念フレンドリーマッチ」と題した「自衛隊・米軍大運動会」の生放送に参加して、ファンファーレや行進曲の応援演奏を行いました。しかし、本番直前に震度5強の地震が発生し交通網が乱れるなか、辛うじてオンエアには間に合わせたという裏話があります。

 2013年の大晦日には、『祝! 2020東京決定SP、東京五輪夢と奇跡の物語』という番組が放送されました。そのオープニングで、1964年の《東京オリンピックファンファーレ》の演奏が中央音楽隊メンバーによってフジテレビ前から実況生中継されました。一列に並ぶその中には、当時のコスチュームに袖を通した音楽隊OBの姿が特に注目を集めました。オリンピックで演奏したという経験談も貴重でしたが、OB氏の体型がそのサイズにピッタリ合っていたというのも偶然でした。「白い上衣と赤いズボン」をまとった氏の演奏は夜のお台場に美しく映え、インタビューでは「できればもう一度、オリンピックで演奏をしたい」と語られていたのが印象的でした。

 2015年から中央音楽隊が育成を担任している、パプアニューギニア軍楽隊の密着ドキュメントも度々放送されています。熱帯の厳しい気候のなかで指導する音楽隊員たちと、ひたむきに努力を続けるパプア隊員たちの姿は反響を呼び、2022年の「自衛隊音楽隊まつり」に迎えられた彼らと指導スタッフの姿は感動を誘いました。

 最後に、ここ十年来は音楽隊〝歌手〟の活躍が顕著に報道されています。海上音楽隊の三宅由佳莉2曹は、2013年に収録されたCDアルバムが日本レコード大賞企画賞を受賞しました。そして年末の『第55回輝く!日本レコード大賞』に、東京音楽隊の演奏とともに出演したのは、音楽隊にとって先例のないことでした。また、『SMAP×SMAP』のゲスト出演には、視聴者からも大きな反響があったようです。ほかにも、『おはよう日本』や『FNNスーパーニュース』などでも特集され、現在でも各メディアから注目を集めています。

 陸上音楽隊の鶫真衣3曹も、『真相報道バンキシャ!』『スッキリ』での特集や『モヤモヤさまぁ~ず』への出演があり、『新・BS日本のうた』では、中部方面音楽隊とともに《赤とんぼ》や《春よこい》などを歌い話題となりました。

 音楽隊が1000名を集めたコンサートを年間に20回行っても、その総数は2万人にしかなりません。その点、テレビ出演や動画配信になると当然その数字は上がり、視聴者も日本全国から世界へと広がります。「ペンは剣よりも強し」という格言にあるように、音楽隊の活動がメディアに乗ってより多くの方々に届けられれば、それは国際平和の一助にもなることでしょう。

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