自衛隊ニュース

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うちの子は自衛官

航空自衛隊幹部候補生学校
      入校式に参加して
東京都自衛隊家族会 松尾 隆一

写真=左から内倉空幕長、松尾候補生、岡本学校長


 二男は、今年の4月に一般幹部候補生(部内)として奈良基地の航空自衛隊幹部候補生学校に入校させていただきました。

 入隊以来約10年、空曹としてやりがいと満足感を持って勤務しておりましたが、昨年幹部候補生へのチャレンジの機会を得て、幹部としての道を歩むことになりました。親としてはやや心配ではありますが、引き続き応援していくことに変わりはありません。晴れ姿をこの目で見て励まそうと、入校式に参加した次第です。

 令和7年4月2日、桜がほぼ満開の奈良は曇りではありましたが穏やかな気候でした。二つの古墳に囲まれた静かな佇まいの奈良基地正門から本部庁舎を左に見て、受付を済ませゆるやかに上る道を歩き、グランドの向こうに見えるのは会場の「飛翔館」です。

 式の始まる前、真新しい濃紺の制服に幹部候補生の階級章を付けた二男と会った時には、迂闊にも目頭が熱くなり思わず空を見上げてしまいました。

 末っ子で姉や兄と比べると目立たないおとなしい子供だった二男が、航空自衛隊の中堅のリーダーになろうとしている事に、親バカですが嬉しさがこみあげて来たようです。


空幕長・学校長との

スリーショットに感謝


 式典は、航空幕僚長と幹部候補生学校長の各課程候補生への愛情あふれる訓示や音楽隊の演奏も相まって、厳かな雰囲気の中で整斉と行われました。終了後グランドで課程毎の集合写真撮影に立ち会い、何処にいるかわからない二男の所属する部内課程の候補生達の写真をスマホに収め、正午過ぎに奈良基地を後にしました。帰路の新幹線の中

で、二男からLINEで写真

が送られてきました。そこには、なんと!航空幕僚長と学校長の間に二男が写っているではありませんか。なんで?と思いつつLINEを返すと「候補生全員と撮っていただいた」との由、驚愕してしまいました。全員との写真は数時間を要したと思います。お忙しい航空幕僚長と学校長にも関わりませず、全員と写真を撮っていただき親として感謝し過ぎても足りません。候補生全員が感激し、航空自衛隊幹部としての道をしっかりと歩むことを心に誓ったに違いありません。優しく微笑む空幕長と学校長の間で緊張の面持ちの二男の写真は、私たち家族にとっても宝物になりました。改めまして内倉空幕長と岡本学校長の格別なるご配慮に感謝を申し上げます。

読史随感
神田淳
<第173回>

AIから人間の知を考える

 あたかも人間のように言語を理解し、会話するChatGPTが開発されるなど、近年AI(Artificial Intelligence=人工知能)の進歩は驚異的である。AIにより、人を見分けたり、文章を作ったり、翻訳したり、かつて人間にしかできないと思われていた知的な作業がコンピュータ上で可能になった。AI技術はスマートフォン、自動運転、医療診断、金融取引等に導入され、さらに教育界や囲碁、将棋にも活用され、AIは社会を変えつつある。AIは一層の効率性と豊かさを社会にもたらすだろうが、人間の思考力を低下させるといった懸念や、プライバシーの侵害などの倫理問題が生じる懸念も論じられている。

 そもそもAIのできる知的作業はどのようなものだろうか。まず、AIは画像認識と音声認識ができる。画像認識とは、画像に何が写っているのかをコンピュータが認識する技術。対象物の形や色などの特徴をパターン認識し、画像が何であるかを判別する。音声認識とは、人間が話した声を解析し、文字に変換する技術。次にAIは言語処理、すなわち文章を理解し、作成することができる。そして文章の他、画像、音声など様々なコンテンツを生成することができる。さらに、大量のデータから規則性・パターン、傾向を認識して今後の動向を予測したり、新事実を発見したりできる。

 一方、人間のもつ感情の理解、創造性の発揮、倫理的判断、常識の理解などはAIにはできない。文章の口調や顔画像の表情から感情らしきものを読み取るが、それは過去のデータパターンからの類推に過ぎず、感情を理解しているわけではない。また、創造性については、既存のアイディアを組み合わせる創造はAIにできるが、インスピレーション型の0↓1の創造はできない。倫理的判断、常識の理解については、AIの「理解」は大量のデータによる統計的パターン認識である。倫理や常識の根底に理性と感情の入り混じった人間精神があり、これをAIがデータで再現するのは難しい。

 そしてAIにできない根本的なことは、当たり前だが、AIが感情や意思を持たないことから来る。人間の精神の働きは、知、情、意から成るとカントは説いたが、AIは知的作業をするとはいえ、あくまで機械であり、情(感情)と意(意思)はない。そしてAIの知は膨大なデータを分析し、言葉を解析し、意味を推論するなど機械学習して得られたもので、感情や意欲をもつ生きた人間の知ではない。

 機械学習の進歩が現在AIの驚異的機能を生み出した。機械学習はデータから学習し、パターンを見つけ出して認識する仕組みだが、プログラムされたルールを変えることなく、データに基づいて自己改善を行う。人間の脳神経を模擬したネットワークのアルゴリズムによって、大規模なデータを深層学習する。深層学習といっても、あくまでアルゴリズム、プログラムによる膨大なデータの処理であり、生きているAIがデータから得られた知を理解しているわけではない。

 当たり前のことだが、AIと人間の知の違いは、生きている人間とそうではないAIとの違いである。人間の多くの知は生きることと深くかかわっている。知識、知恵といい、知能、知性というが、知恵は人間の生き方と深くかかわり、知性は人格と深くかかわる知である。良知、英知(叡智)なども人間の生き方に深くかかわっている。「識」も知ることを基本とする精神的な働きだが、見識、良識、常識、胆識なども生きることと深くかかわる知である。

 AIの得意とする能力をよく知り、AIを活用するとともに、AIが不得手とするものを知り、正しい知を追求したいと思う。

(令和7年6月1日)


神田 淳(かんだすなお)

 元高知工科大学客員教授。

 著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』(https://utsukushii‐nihon.themedia.jp/)などがある。

音楽隊に敬礼っ‼<第12回>
前陸上自衛隊中央音楽隊長 樋口 孝博

名誉のエディンバラ②

最優秀出演団体賞を受賞!

写真=エディンバラ城を背にした中央音楽隊


 海外バンドが現地に到着する頃、開演前のタトゥー(軍楽祭)会場では既にナレーターが観客を盛り上げています。自分の国の名前が呼ばれると、その国の人々は足でスタンドを鳴らし、大きな歓声を上げます。それほど世界中から観客が集っているのです。空軍の飛行機が上空を通過すると、ファンファーレと花火が鳴り響き、いよいよ開演になります。

 各国のパフォーマンスは、格式あるエディンバラ城の門から入場して次々に観客を魅了していきます。我が日本チームが登場したときには、城壁に富士山や猪鹿蝶、桜などがプロジェクション・マッピングで美しく照らされていました。演奏に合わせ甲冑姿の隊員2人が殺陣(たて)を演じ、法螺貝(ほらがい)や和太鼓の演奏では、日本の「わびさび」を伝えます。最後は振袖姿のソプラノ歌手による《アニーローリー》の歌声を披露して、花火とともに大盛り上がりのなか幕を閉じました。

 このイベントは、演奏技術だけでなく視覚的要素を多く取り上げており、民族色の豊かなバンドや、ときには馬やラクダなどの動物まで登場することがあります。歴史的なシーンを再現する場面や、華やかなスコティッシュ・ダンサーたちが踊るシーンも盛り込まれ、構成的に何度見ても飽きないものを作り上げていました。フィナーレでは、総出演者の中心に立つ中央音楽隊の歌手が、叙情的に《ハレルヤ》を歌いあげました。歌詞の一部を「ありがとう」に置き換えて、児童合唱やヴァイオリングループを交えながら歌う姿は、他で味わうことのできない誉高いものでしょう。そしてエンディングでは、会場全ての人が交差した手を繋いで《蛍の光》の大合唱になります。「会場が一体となる」とは、まさにこういった風景ではないでしょうか。

 最終日が近づくと、参加国同士のギフト交換が慣例です。各軍楽隊長やスタッフに「折り紙の兜」や「桜と富士の扇子」を差し上げ、交流の輪は広がっていきます。最後にディレクターから、「次回のフィナーレでは、メインスタンドの下で待っていてください」と言われたときは、てっきり返礼かと思っていました。すると突如フィナーレが中断され、私にスポットライトが当たるのです。「隊長!何をやらかしたのか?」と隊員たちが思うなか、メインスタンドの階段を聖火ランナーのようにVIP席へと案内されます。周囲の方々から、「コングラチュレーション!」と笑顔で声を掛けられながら登っていると、以前に参加者投票をしたことを思い出しました。嗚呼! あろうことか、我々日本が「最優秀出演団体賞」を受賞したのです。会場の観衆と出演者全ての目が注がれるなか、〝あの座席(前号参照)〟の超VIPから「名誉の剣」を受ける瞬間は、我々日本の音楽隊が金メダルを授かったような気持ちになりました。偶然にもイギリスでは、1910年に陸軍軍楽隊が「日英同盟記念親善博覧会」でグランド・プライスを受賞しています。百年の時を経た同じ「英国の地」というものに、何かの巡り合わせを感じた次第です。

 そして1カ月にわたる公演を終え、いよいよ最後の退場になります。日本のイベントでは、観衆が帰途に就いてから出演者・スタッフが退出するのが一般的ですが、このタトゥーは演奏しながら退場するのが見せ場でした。手拍手を受けながらゲートを抜け、旧市街を1分ほど行進するとバスに飛び乗り、観衆よりも先に宿舎へと向かうのです。これほど効率的な進行は今までに見たことがなく、歴史の積み重ねがこのような演出に繋がっているのかと感心させられました。

 世界中のタトゥーは、特色ある軍楽隊、花火、民族舞踊、独立戦争の再現など、どれもこの軍楽祭の影響を受けていると思います。皆さんにも、是非この「エディンバラ・ミリタリー・タトゥー」の感激を共有していただきたいものです。興味のある方はYouTubeで2017年のものからご覧ください。ちなみに刃はついていませんでしたが、「名誉の剣」を帰りの飛行機に持ち込むのは、たいへんな苦労を要しました。

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