自衛隊ニュース
防衛衛生有志会 メンタル冊子刊行
日本防衛衛生学会の支援を受け臨床心理士、精神科医の隊員らでつくる「防衛衛生有志会」はこのほど、曹士隊員対象のメンタルヘルス冊子「精強自衛官へ贈る心のサプリメント~身体と共に心も鍛えよう!」を刊行した。
全4章。「心」を鍛え整える方法をイラストを交えて紹介している。
1章「豆腐メンタルにさよなら!」では、「打たれ弱い」、「凹みやすい」豆腐のメンタルから、柔軟で強い「こんにゃくメンタル」に変わるよう勧め、言葉を〝変換〟する習慣を身に付けるよう説く。たとえば、「失敗した」、「疲れた」と思っても、それを「勉強になった」、「よく頑張った」と切り替える。
3章「生きやすくするためのヒント」では、「認知のゆがみ」を解説。たとえば「先輩にあいさつしたのに返事がなかった」という状況を、「無視された」ではなく「気が付かなかったんだろう」と捉えれば気持ちがニュートラルになる。段階的に「適応型思考」に至る手順も示す。
4章「困ったときのために」では、トラウマを負い強いストレスを感じる時の対処として「コップ1杯、お水を飲んでみる」などの方法を記している。
防衛衛生有志会の千先康二元自衛隊中央病院長は、「訓練を通し勇猛さと繊細さを兼ね備えた皆様だからこそ、心のバランスを保ち心に余裕を持つことは非常に大切だと思います」と刊行の趣旨を述べる。
同会の長尾恭子3空佐は「一人でも多くの隊員の手に届き、各部隊の心身の健全性保持の一助となることを切に願っています」と語っている。
A5版、112ページ。価格900円(自衛隊割引700円、会員割引600円)=税無=、送料200円(4冊まで)。
申し込みは日本防衛衛生学会HPから、または同会(boueieisei@gmail.com)へメールで。
アマゾン、楽天でも販売している。
操縦席からの回顧録
~大いなる空へ夢を乗せて~
手記:井上 正利(監修:芦川 淳)
<第12回>ついにFECを卒業して実戦部隊へ
写真=FEC卒業後の私は、北部方面航空隊(丘珠駐屯地)隷下の北部方面ヘリコプター隊第1飛行隊に配属された※作成:芦川淳
昭和61年(1986年)7月3日、とうとう迎えたFEC(陸曹航空操縦課程)卒業式の当日、学生たちによる卒業編隊飛行を行い、教官・学校職員や親、後輩の学生達が見守るなか、総勢8機からなる大編隊を組んで上空を飛んだ。私は福岡から両親を招き、自分の夢の扉を開いた矛先の一部を見てもらおうとしたが、歓喜と今迄の努力を重ねた苦労のあまりか、飛行中にポロポロと涙が出ていたのを思い出す。見かねた教官が操縦の交代を尋ねてきたが、涙を拭って自分で最後まで操縦した。
卒業式では、航空学校長に憧れの金色の航空徽章「ウイングマーク」を左胸に付けて頂き、長年の苦労と努力が実り、ひよこではあったがついにパイロットの仲間入りを果たした。そして卒業式が終われば、落ち着く間もなく、次に待つ部隊への配属である。正門では学校職員・後輩達に見送られ、お別れのセレモニーとして全員が制服の帽子を高々と宙に舞い上げるなか航空学校を後にした。不安を胸に同期達が向かう先は、帯広、旭川、札幌、八戸、仙台、宇都宮にある赴任先の部隊である・・・。
同月に私がパイロットとして初めて配属された部隊は、北海道の札幌、丘珠駐屯地にある北部方面航空隊。その隷下に置かれる「北部方面ヘリコプター隊」の第1飛行隊であった。人員空輸、指揮連絡、航空偵察などを柱に北部方面隊直轄部隊への航空支援を行う飛行部隊で、当時は多用途ヘリコプターのUH1BとUH1Hの2機種を主力として運用していた。
着任後、すぐに飛行班長のT3佐の面接を受けることになり、そこで「井上君は、操縦一筋で生きるか、若しくは勉強して出世を目指すかどちらだ?」と、いきなり将来の希望について質問された。出世コースを目指すならCGS(指揮幕僚課程)に入校するための厳しい試験を突破しなければならない。FECに入校したのはパイロットになりたい一途の目的があったから、私は迷わず「操縦一筋で頑張ります」と答えた。
すると、この面接を機に、飛行班長による躾を重視した格別に厳しいご指導が始まった。実戦部隊に配属されれば、すぐに操縦が出来ると期待していたが、それはとんでもなく甘い考えだったのだ。操縦畑で生きて行くというのは、操縦のプロフェッショナルとして道を極める必要があり、ますます失敗は許されないという意味があったのだ。
そして、新人として始めにやった仕事は、操縦マニュアルや運用規則の熟読でも飛行計画作りでもなく、課業前と課業後の清掃、そして各機長や先輩副操縦士のコーヒーの好みを調べることだった。まだ飛ぶことを許されない「ひよっこ」は、部隊の先輩をよく知るために、毎朝、心のこもったコーヒー作りをする。コーヒーが嫌いで昆布茶や日本茶が好きな先輩もいたので、私は、飛行班の操縦士全員の嗜好を一覧表にして戸棚に貼っていた。砂糖やクリープの量、お茶の濃さとかをキメ細かく調べてメモにすることは、相手への理解を深めたり、相手の懐に入っていくことに役立った。
どの世界でもそうだと思うが、早く慣れるためには対象を知り尽くすことが重要だ。積極的に先輩達と慣れ親しむことで、ちょっとした会話の中からフライトに関する重要な情報を吸収することが出来たように思える。
平日はそんな感じだが、週末は、飛行班の部屋、ブリーフィングルーム、幹部室の清掃と仕事が一段と増えた。床をタワシでこすり、ワックスを掛け、最後にはポリッシャーで床を光らせたら新聞紙をかけてカバーして終え、月曜日の朝には新聞紙を取り去ってピカピカの状態で先輩達を迎えた。やっている最中はずっと「コンチキショー!こんなの俺のしたい仕事じゃねー!」と恨み節だったが、次年度の新人が来るまでの1年もこんなことを続けていると、床を基礎から磨き上げる、つまり自分の心も磨き操縦にも真新しい気持ちからスタートするという心構えを学んだ・・・。
これが、一年後に後輩の新人パイロットが配属されるまで続いた。ちなみに、その後輩は、結婚していて、掃除には必ず奥さんを動員して私の半分の時間で終了させていたという知能犯だった。しかし、こうした掃除や清潔にするということは、機内のしっかりとした整理・整頓に繋がり、即応態勢を維持する大事な躾となる。誰もが同じように動け、いかなる状況でも直ぐに飛び立てることは部隊行動にとって大切なことなのだ。
井上正利(いのうえまさとし)少工校20期生。
陸自では希少な固定翼機操縦士として緊急患者空輸等で活躍(総飛行時間4967時間)、現在は航空会社の那覇営業所長と安全推進室長を兼任
日本防衛の核心としての自衛官
‐人的基盤はいかにあるべきか‐
<第15回>
笹川平和財団日米・安全保障研究ユニット総括・交流グループ研究員 柴山真里枝
海外調査報告(5)国民が国防や軍に身近に接する機会を作ること
写真=シンガポールの国防の重要性を広く伝える施設「Singapore Discovery Centre」。多様なコンテンツ・展示を用いて理解促進を図っている
本海外調査報告では、防衛における人的基盤強化の施策について、日本の参考となる各国の取り組みを紹介している。今回は「国民が国防や軍に身近に接する機会を作る」施策として、海外調査を行った4か国の事例を紹介する。各国では、国民が国防や軍に触れ、理解を深めるための多様な工夫が確認された。具体的には以下2点である。
(1)戦争博物館等を気軽に訪問できる工夫
第1に、戦争・軍事博物館など、国防や軍人、戦争の歴史等について学ぶための施設へ、市民、特に生徒・児童が訪問しやすい環境整備である。
英国では、帝国戦争博物館と国立陸軍博物館を訪問した。前者では、学校向けのプログラムが充実しており、第2次世界大戦の生存者や退役軍人との対話、展示物を用いたドキュメンタリー制作体験など、特色あるセッションが提供されている。内容は学習カリキュラムとも関連づけられており、学習の一環として学校が訪問しやすい体制が整備されている。後者では、家族が気軽に利用し、また楽しみながら軍事や兵士について理解を深めるための工夫がみられる。各種イベント・ワークショップに加え、キッズスペースや子供向けの誕生パーティーの開催サービスも設けられている。両館ともに平日日中の時間帯にもかかわらず、小・中・高校生から家族連れまで多くの訪問客で賑わっており、特に陸軍博物館では開館直後からベビーカーを押した親子連れが続々と訪れるなど、これらの博物館が市民生活に根差している様子が窺えた。
シンガポールの「Singapore Discovery Centre」は、防衛に関する広報施設であり、博物館とは異なるアプローチで国防の重要性を市民に分かりやすく示している。展示では現代アートの作品を活用するなど視覚的な工夫も多い。併設の士官学校訓練施設の見学ツアーのほか、軍事施設をテーマにした脱出ゲームや戦場をモデルにした射撃ゲームなど、軍や兵士の生活の一端を楽しみつつ疑似的に体験する仕掛けもある。また、まずは気軽に足を運んでもらえるよう、映画館を併設するなど、来館ハードルを下げる工夫もみられた。
(2)市民が国防や軍に接する機会の創出‐①体験機会の提供/②日常での接触機会の確保‐
第2に、市民が国防や軍に身近に接する機会の創出として、①軍を体験する機会の提供、②日常生活における軍人との接触機会の確保が挙げられる。
①について、豪州では17‐24歳までの若者を対象とした、「ADFギャップイヤー」という制度が設けられている。参加者は1年間、訓練・演習・作戦に参加するほか、給与・福利厚生等を受けつつ軍での職務経験とスキルを習得できる。軍務を体験することが修了後もしくは将来的に軍を志望する契機となり、募集に大きく寄与している、との国防省のコメントがあった。
また、英国や豪州では、軍・国防省の支援を受けつつ、学校・地域社会等と連携して運営される青少年育成プログラムが存在する。軍とは別組織であり、参加する青少年は軍人ではない。軍務や入隊義務を伴わず、リーダーシップやサバイバルスキルをはじめとする各種技能を学ぶことができ、海軍・空軍では基地等への訪問も行われる。あくまで青少年育成が目的であり、軍の採用ツールとは明確に区別されているものの、修了後は軍でのキャリアへ進む場合もあり、結果として国防や軍に対する関心を育む機会としても機能しているといえるだろう。
②について、ドイツでは、制服着用時は電車運賃が無料となる制度が導入されている。軍人向けの福利厚生に加え、軍人の存在を社会生活において可視化し、市民が日常的に軍人の姿を目にし交流する契機を生み出す狙いがある。
以上の事例より、各国は、国民が国防や軍について身近に接し学ぶ機会を創出することで、国防の重要性や軍・軍人の役割に対する理解を促進し、募集への寄与は勿論のこと、国防を支える人的・社会基盤の強化に繋げていると示唆される。本研究会の提言1「政府あげての社会基盤の強化も含む継続的な検討」で述べているように、広く国民が国防や自衛隊の重要性を理解することは、防衛力における人的基盤の強化においては不可欠である。各国における「国民が国防や軍に身近に接する機会を作る」施策は、安全保障教育や広報活動等を通じて、国家の防衛そのものに資する取り組みといえるのではないか。
なお、安全保障教育や広報活動については、提言7「国民全体の社会基盤としての安全保障教育の強化」および提言8「自衛官という仕事の理解の促進」でも取り上げているため、併せて参照されたい。
今回をもって英・独・豪・シンガポール4か国に関する海外調査報告は終了し、次回は政策提言の総括を行う。