自衛隊ニュース
根拠なき誹謗中傷、名誉棄損は
許されることではない
『日航123便墜落「撃墜説」の真相』著者に聞く
ほぼすべてが
『違和感』『デタラメ』
1985年の日本航空123便墜落事故から約40年。事故の記憶が語り継がれる一方で「撃墜説」といった憶測もまた拡散を続けている。こうした「陰謀論」に対し、元海上自衛隊最高幹部の一人で航空機搭乗員でもあった真殿知彦氏は、装備と運用の実態に基づき再度検証を試みた。現場を知る立場から見た「成立し得ない理由」とは何か。事実と向き合う姿勢の重要性とともに伺った。
‐青山氏の著書を読んで「別の意味で衝撃を受けた」とは、どんな衝撃ですか?
私も平成7年4月の参議院外交防衛委員会で佐藤正久議員(当時)がこの本について質問しているのを見るまでは、この本のことを全く知りませんでした。読んでみると元日航乗務員で東京大学博士課程卒業という経歴の人物が、自衛隊に関して全く事実に基づかない、入念に調べた形跡もないデタラメな仮説を展開していて、それが「図書館協議会選定図書」に選ばれ、全国の小中学校にばらまかれていたということに衝撃を受けました。
‐元海上自衛官として、一番看過できないと感じた部分はどこですか?
著者の青山氏は、当日は現場海域にいなかった護衛艦まつゆきから発射されたミサイルが日航機に命中したという根拠なき仮説を広めています。他にも空自のパイロットが止めを刺したとか、陸上自衛官が現場の遭難者を火炎放射器で焼いたなど、とんでもない話がまるで事実かのように書かれています。現場で実直に任務についている全国の自衛官、退職した自衛官に対する根拠なき誹謗中傷、名誉棄損は許されることではありません。また、日航機の事故で大切な家族を失ったご遺族の方々に対しても、大変失礼だと思います。
‐また、一番違和感を覚えた部分はどこですか?
ほぼすべてが「違和感」「デタラメ」ですが、恐ろしいことはこのようなトンデモない話がSNSを通じてまるで本当かのように広まり、それを信じている人が一定数いることです。また、全国の小中学校の図書館にばらまかれたことで、子供の頃からこのような説を信じてしまった人もいるのではないでしょうか。この影響を軽く見ることはできません。そして、このような本が事実の正確性や公平性、教育的価値などを重視するとされる「図書館協議会選定図書」に選ばれたことにも違和感を覚えます。私個人でできることには限界があるので、政治や防衛省・自衛隊の関連団体の力で選定経緯について解明していただけないかと思っています。
‐一般の人が誤解しやすいポイントは何だと思いますか?
一般の人は軍事や航空に関して、専門的な知識を持っているわけではないので、強い論調で言い切られると信じてしまう可能性はあります。もっともらしいストーリーを組み立てて、根拠のない矛盾だらけの証拠や証言をあたかも事実のように並べて、読者を信じ込ませる手法ですので、注意が必要です。しかし、実際に信じ込んでしまう人は実は本を読んでなく、SNSで切り取られた部分だけで信じてしまっているようです。SNSでの不明者による出典不明の情報には、特に気を付ける必要があります。
‐それでもまだ、自衛隊の名誉に関わるこの「陰謀論」を信じる人には、なんと言いたいですか?
元々、陰謀論や都市伝説のようなものを本当に信じる層は一定数いて、それに加えて反政府、反権力を信条とする人たちは、青山氏の本のような話に飛びつきます。妄信的な確信犯なので、どうにもならないだろうと私は思っています。しかし、青山氏の本を信じていないまでも、「実際のところ、どうなんだろう」と思っている方がいれば、私の本を読んでいただければ、全ての疑問は解消されると思います。
‐自衛隊への信頼及び自衛隊への名誉という観点ではどう思いますか?
正当な批判に対して耳を傾け、それを組織の改善につなげるという姿勢は大事だと思いますが、このような根拠なき主張は誹謗中傷でしかありません。そしてそれを広めるという行為は、日夜現場で頑張っている自衛隊員の信頼を損なう行為で、一般国民、特に自衛隊員の家族や自衛隊員を目指して頑張っている人たちにも悪影響を与えるものだと考えます。
‐SNSなどで、様々な「陰謀論」がありますが、見抜くにはどんなことに気をつけていけば良いと思いますか?
「単純で明快な説明」こそ、騙されやすいということを、よく自覚しておく必要があります。ナチス時代のプロパガンダ戦略の一つに「ビッグ・ライ(BigLie)というのがあります。簡単に言えば、「小さな嘘は見破られるが、あまりにも大きな嘘をつけば、人々はそれを信じてしまう」ということで、これは今の時代にも効果を発揮します。また、自分の情報収集能力や知的能力に自信がある人ほど、初めて聞く話や考えもしなかったような話を過大評価してしまう傾向があるといいます。オウム真理教に多くの高学歴者が引き寄せられたのが一つの例です。このような話には、常に「何かおかしいな」という客観的な視点を持つ必要があります。
(聞き手・本社代表 吉田佳子)