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ノーサイド

北原巖男

シルバーパス大旅行

 東京都には、70歳以上の都民が購入できる「東京都シルバーパス」があります。対象者によって購入金額は異なりますが、都内民営バス・都営交通などを利用することが可能なパスです。

 これまで僕は、「シルバーパス」という名前そのものに強い抵抗感を抱いていました。購入申請などさらさら考えたこともありません。

 そんな僕が、この度簡単に変節しました。2万510円を支払って購入したのです。係員の方曰く、「週2回、月8回乗れば元が取れますよ」今まで、月8回もバスや都営地下鉄を利用したことはありません。

 日常の自由時間は手に余るほどに余裕があり、しかも、体力と好奇心はまだまだそれなりに残っていると勝手に自負している僕は、決断しました。これから1年間、このパスを利用して東京都内発見の旅・冒険に挑戦するぞ。

 大学受験浪人の18歳で初めて上京して以来の東京暮らしですが、いつかは行こうと思っていながらそのままになっている場所が沢山あります。もう一度見てみたい所も。そして、「あそこで食べたあれは、ウマかったなぁ、また食べたい」等々。

 交通費を節約しながら、幾多の未知の路線バスや都営地下鉄・都電を組み合わせ、乗り継いで、目的地を目指す途次の不安と緊張。そして到着した時の達成感。思うだけでもワクワクして来ます。

 帰りは違うルートで。そんな野望も生じて来ます。目的地までの往復の所要時間は予測不能な程にかかることでしょう。途中でギブアップし、便利な交通手段での移動に陥る事態もあるでしょう。

 ウォーミングアップのつもりで、早速、浅草に狙いを定めました。

 目標は5つ。(1)浅草寺大門でインバウンドの旅行客が実際どれほど多いのか、この目で直接確かめる。(2)アーケードの中に在ったはずの「やげんぼり」を訪問し、唯一無二のオリジナル「七味」を調合してもらう。(3)カッパ橋商店街でコーヒーの生豆を焙煎する用具を購入する。(僕の趣味は、七輪を使っての炭火焙煎。長年使用している焙煎用具は金属製の目の細かいザル。しかし直火のため、焙煎にばらつきが出てしまう。生豆本来の良さを導き出せないのは、僕の焙煎能力のせいではなく、直火ザルによるものと結論付け。)(4)もう何十年も行っていないあの「長命寺の桜もち」を食べる。(5)在原業平の「名にしおはばいざ言問はん都鳥 我が思ふ人はありやなしや」との歌で有名な「言問団子」。昔も一個の値段が高かった記憶があるので、色違いの3個だけ購入する。

 行きのルートは予め容易に確定。バスで渋谷を経由して新橋に出て、都営浅草線で浅草直行。帰りは、浅草を通っている路線バス次第。何とかなるだろう。

 09:38自宅近くの祖師ヶ谷大蔵駅バス停発。19:02同バス停帰着。所要時間9時間24分に及ぶ小さな大旅行。乗車したバス6路線、電車等4路線。終日小雨模様の中、浅草のもの凄い観光客の数に圧倒されつつ、歩きに歩いて目標はいずれも達成。満足感いっぱいの一日となりました。但し、僕には、もう少し忍耐力が必要なことも実感。

 今回、メモ帳を持参し、旅人気分になっていたからでしょうか、さまざまな人達が目に入りました。

 ・腕に「Your time is limited」と入れ墨した外人旅行客。MyでなくYourと書かれているのが、怖い。

 ・東南アジアからと思われる若い親子3人は、それぞれレンタルの和服がとても綺麗に着つけされていて似合っています。ママの髪飾りも素敵。家族で海外旅行など僕の子ども時代にはありえなかったことです。豊かになっているんだなぁと思う。

 ・特大のスーツケースを重そうに引きずりながら少し言い争っている中国人らしいカップル。思わず、「短気を起こさないで!幸多かれ!」と祈る。

 ・今回乗車した地下鉄車内も、ほとんどスマホを見ている人ばかり。20年前は、新聞や雑誌。まさか今のようなスマホの世界になるなどとは思いもよりませんでした。この先、20年後はいったいどうなることでしょう、全く想像もつきません。

 ・混雑するバスの中、高校生らしき男子生徒とお母さん。目の前の席が空きました。座ったのは息子。アレレっ・・・?しばらく先の停留所から乗って来た老婦人を見て彼は即座に席を譲りました。老婦人の笑顔と彼のシャイな表情。

 ・浅草では、交番のおまわりさんやヘルメット姿の作業員の方、隅田川の土手を歩いていた地元の方らしい人など、みんな親切に道を教えてくださいました。

 ・浅草からは、たまたま見つけた都バスの日暮里行きに飛び乗りました。赤ちゃんを抱いた幸せいっぱいの若い夫婦。そんな夫のT-シャツの背中いっぱいに大きく描かれた収容所の監視塔とみられる絵と太い英文にはビックリしました。もちろん彼のことも、どのような経緯で彼がこのシャツを着用しているかは知る由もありません。

 「POW MIA You arenot forgotten」

 申すまでもなくPOWは「Prisoner of War(捕虜)」、MIAは「Missing in Action(戦闘後の行方不明兵士)」。ロシアの執拗なウクライナ侵略やガザから各地へ戦火が拡大し緊迫の度合いを高めている中東での激しい戦闘における家族や同僚たちの「あなたのことは忘れてはいない」との悲痛な叫びが伝わって来るようです。

 日暮里からは高架を自動運転する日暮里・舎人ライナー。熊野前駅で下車し、次は都電。何十年振りでしょうか。浪人時代、予備校があった大塚駅から下宿近くの新庚申塚駅までこの都電で通ったことがありました。でも終点の早稲田まで乗ったのは今回が初めて。早稲田まで行けば何とかなるだろうとの思いからでしたが、早稲田駅は大きな道路の真ん中。さてどこへ行ったらよいものか、さっぱり見当もつきません。とにかく都バス等の姿がどこからか現れるまで動かないで待つことにしました。止まったバス停を目指して歩く。そこは2路線のバス停。それぞれの路線図には途中の乗り換えの表示もあり、とても助かりました。上野公園行に乗り、途中春日駅前で下車。都営大江戸線に乗車して新宿まで戻って来ました。

 今回、新宿から渋谷までのバス移動に40分もかかることが分かりましたが、既に夕刻6時近くになっていた車窓から見た渋谷は若者で溢れかえっていました。活気を感じ、嬉しくなります。

 新しく林立した渋谷の不夜城のような高層ビル群。空に近い階の明かりは霧雨に抱かれて薄くなり幻想的。しばらく並んでから祖師ヶ谷大蔵駅行きのバスに乗ったときは、さすがにホッとしました。

 To be continued.


北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事

柏市総合防災訓練に空自が初めて参加

通信装置展示等で理解促進

 航空システム通信隊(司令・谷川修1空佐)及び航空中央業務隊(司令・平井勇一郎1空佐)は、9月21日に、千葉県柏市(セブンパークアリオ柏)で開催された、「令和6年度柏市総合防災訓練」に航空自衛隊として初めて参加した。

 この訓練は、柏市(危機管理部防災安全課)が主催して、同市に所在する防災関係機関(陸自松戸駐屯地、海自下総基地、柏警察署、国土交通省等)に働きかけ、南海トラフ巨大地震及び首都直下地震の高い発生率を見据え、防災実践力及び防災意識の向上を図るために実施されるものだ。

 今回の訓練開催に際し、柏市(危機管理部防災安全課)から、市ヶ谷基地司令を通じて、柏市に所在する「航空システム通信隊柏送信所」が依頼を受けて、共同で訓練に参加することとなった。

 当日、各防災関係機関は、それぞれのブースに防災等に係る器材展示及び説明等を行った。

 航空システム通信隊柏送信所は、災害等により、基地等間の通信が断絶した際、衛星回線を使用して、通信回線を新たに構築することができる「可搬型衛星通信装置(CREA)」及び「多用途連接通信装置(AJICS)」を展示するとともに、隊員が自作したパネルを用いて、器材説明を分かりやすく行った。


模擬コックピットやVRゴーグル体験


 また、広報活動として市ヶ谷基地に所在する航空システム通信隊及び航空中央業務隊と合同で、空自ブースに来場した幼児から大人までの幅広い年代層の約800名に対し、模擬コックピット(用途廃止となったF4戦闘機の操縦桿、エンジンレバー及び計器類)、VRゴーグル(F2戦闘機の360度映像)の体験及び能登半島地震の災害派遣活動について説明を行った。その際、「将来、航空自衛隊に入隊してパイロットになりたい」や「災害派遣活動ありがとう」等の声を聞くことができた。

 今回の訓練を通じ航空自衛隊への理解促進や隊員募集の一助に努めることが出来た。

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