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   2003年7月15日号
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<論陣>
男性から女性へ、その逆も
戸籍上、性別変更が可能に
 親がいったん「男性」という出生届を出したら、その人が「私は女性です」と主張しても、一生、「男性」であって、決して「女性」として法的に認められないのが日本の法律だった。
 ところが、実際問題として戸籍上は「男性」だが、肉体的にも、心理的にも「女性」で生活している人が意外に多い。男性と女性の能力を持っている人、生活も、服装も、考え方も女性として暮らしている人、男女の能力のうちの片方を手術で取り除く人などが、想像以上に多い。こうした人が「私は戸籍上、男性だが、実際には女性です。親の出生届が間違っていたのだから"女性"として戸籍を訂正してください」と裁判所や市町村役場に申し入れても、絶対に訂正してくれなかったのが、いままでの実情だった。
 それが、近い将来、男性から女性、女性から男性に戸籍が変更できる法律が成立する見通しになった。もし、戸籍変更が実現すればこれまでのような差別がなくなる上、医療的治療効果を高めることができるので、関係者は日陰者の暮らしから抜け出すことができることになる。法律でこういう人たちを救おうという声は以前からあったが、実際に国会で法律化するのは今国会がはじめてである。法律の名前は「性同一障害者の戸籍に関する特例法」と堅苦しいが、実際には救済法律である。さる7月1日、参議院法務委員会で審議の上、正式の法律案として本会議に提出することを決めた。参議院本会議から衆議院の法務委員会を経て、本会議で可決すれば、法律として姿を現わすことになる。
 戸籍上、男性から女性に、また、女性から男性に変更するためには、手続き上、いくつかの条件が必要である。その第一は、医学的な性と心理学的な性が異なり、本人が"別の性"になりたいという強い意思があること、第二に2人以上の医師の診断で、本人の意思と現実が一致していること、第三は年齢が20歳以上であること、第四は未婚であること、第五は子供がいないこと、第六は性転換手術で生殖腺の機能があげられている。
 こうしたいくつかの条件の人が家庭裁判所に「戸籍変更」を申請し、認められると、別の性で新しい戸籍を作ることができるようになる。「あいつは戸籍上男性なのに女そのものではないか」とか「男子校に入学するのは場違いではなかったのか」などの陰口から脱却し、法律上からも「私は女性よ」と堂々と言えるようになる。
 性同一障害者に関する特例法が執行されると、一体、どんなことが解決するのだろうかを考えてみたい。まず、差別が解消される。これは本人にとって最大の喜びであろう。そして、これまで法的にあれこれとむずかしいことが起きていた相続問題が解消する。就職問題にも大きな影響を与えることができるのではないか。女装した男性が公的な勤務先に就職することは、これまで、まず不可能だったが、これからは戸籍原本どおり"完全な女性"として通用することになる。住民登録も"女性"または"男性"になるのだから、当然、パスポートも戸籍上の性で取得できる。空港でもめることも無くなるわけである。郵便局への貯金や銀行の預金口座も本当の性で口座が開けるし、自動車の運転免許証も堂々と「じぶんの性」で取得できることになる。
 生まれてから今日まで、戸籍どおりに生活してきた人たちにとっては「男性でも女性でもいいじゃあないか」と単純に思いがちだが、出発点が違っていた人たちにとっては、生死に悩むほどの重大事なのである。しかし一般的な生活を送ってきた人たちは"法律を改正して、差別をなくそう"などは思いつかないのが現実である。その意味で、このたび国会が動いてくれたことは、たいへんに国民寄りの行為であると思う。
 非嫡出子への遺産配分率(遺留分)や、医師の誤診による幼児の死亡に対する慰謝料の問題、老人福祉、年金問題など、いますぐにでも手をつけてもらいたいことが山ほどある。どうか、底辺や逆境で生きている人たちの諸問題について"国"は、検討だけではなく、実行してもらいたい。

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