自衛隊ニュース
音楽隊に敬礼っ‼<第28回>
前陸上自衛隊中央音楽隊長 樋口 孝博
ステージの表と裏
写真=コンサート会場受付にて
音楽隊がステージに立っているとき、会場の内外では多くのスタッフが運営にあたっています。拍手を浴びるのは音楽隊だけかもしれませんが、イベントの成功は陰の支えがあってこそ成り立つのです。今回はコンサートづくりにおけるキーパーソン「受付・案内係」と「ステージマネージャー」をご紹介しましょう。
受付・案内係
コンサート会場では、期待と不安に満ちた来場者が開場時間を心待ちにしています。受付・案内係はそういった方々と直接触れ合うことになりますし、なかには自衛官と初めて会話をする人もおられるでしょうから懇切丁寧な対応が必要です。
受付に立っていると座席場所はもちろん、トイレの場所もよく聞かれます。そのため係は来場者の目線に立ち、避難経路を含めた会場配置を理解しておく必要があります。次に多い質問は終演時間です。開演時間は明瞭ですが、アンコール後の終演時間はプログラムにも記載されていないので、帰りのアクセスを調べるためにも知っておく必要があると思います。また自衛隊のイベントは多種多様なファンが来場されますから、警備の目線を持つことも必要になります。さらに専門のスタッフがいなければ、会場内の空調・飲食・写真撮影などのクレームにも対応することがあります。しかし、終演後に来場者から「良かったですよ!」と声を掛けてくださる喜びは、このうえないものです。
ある地方公演で、「なんとか満員にするぞ!」という気迫に溢れた担当部署がありました。とてもありがたかったのですが、ふたを開けてみると入場券を配りすぎたため来場者があふれてしまうことに…。すべての扉を開放しても、立ち見客でいっぱいです。しかも驚くことに受付・案内の隊員は撤収しているではありませんか。入れない方々は苦情も言えず、渋々帰るしかありません。私は「そんなやり方もあるのか~」と、半ば感心しながら制服姿でロビーを歩いていると、あふれた来場者の視線が一斉にこちらを注目しました。
ときに、受付周辺は自衛隊PRの場でもありますから、クラシックコンサートとは違う独特の雰囲気が伺えます。戦闘機や戦車、護衛艦のパネル展示や「自衛官募集」のノボリまで立つこともあります。ブースではカレンダーやボールペンなどが配布され、その光景はまるでお祭りのようで、見方を変えれば一般のコンサートにはない楽しみ方があります。
ステージマネージャー
音楽隊がステージで演奏するときには、舞台を統括する「ステージマネージャー(ステマネ)」という役割の熟練隊員がいます。ステマネはシナリオを作成し、ステージの配置図を作り、舞台の進行までも頭に入れています。それはまるで建築現場の監督か、テレビ局のディレクターのような存在です。指揮者にとってもステマネの存在は絶大ですから、階級を置いてその指示に従わなければなりません。
演奏会場に到着すると、音楽隊員はステマネの指示でイスや譜面台を並べます。ソリストやマイクの位置は「バミリ」と呼ばれる目印をつけるので、ステージをよく見ると小さなテープが貼ってあるのにも気づくことでしょう。また、曲の間にマイクや譜面台の出し入れもしますし、音響・照明、どん帳(ステージ幕)などの指示もステマネが行います。そして、緊張している指揮者やソロ奏者に落ち着いて出番の合図を出すことも、いぶし銀の仕事といえるでしょう。これだけの仕事をひとりで賄うことはなかなかできないため、音楽隊では若手の幹部がそのスタッフになることもあります。曹の階級にあるステマネから指示を受けて、幹部が作業するのは階級の逆転現象にもなりますが、それほどステマネという仕事はコンサートづくりの重要なポジションなのです。
今後は、ステージの表と裏で活躍する受付・案内係とステージマネージャーの活躍も注目してみてはいかがでしょうか?