自衛隊ニュース
先任伍長の幅を広げ,更に活躍するために
段階的に准海尉が先任伍長に
写真=海上自衛隊先任伍長 北口武史准海尉
令和8年1月1日より段階的に先任伍長に准海尉が就くことになり、13名の先任伍長が准海尉になった(次号、上級下士官名簿参照)。
海上自衛隊各部隊に1人だけいる「先任伍長」。2003年(平成15年)に創設された制度である。「先任伍長」とは階級ではなく〝役職〟であり、部隊の士気、教育、生活、規律、そして隊員一人ひとりの悩みにまで寄り添い、部隊全体の雰囲気と力を底から支える。米海軍のチーフ制度(常に指揮官と一緒にいて、指揮官に助言をし、隊員とその家族の面倒を見るなど指揮官の補佐をする)と海上自衛隊発足時から脈々と続いてきた警衛海曹システムを合わせて出来上がった「先任伍長」。選ばれた者だけが務める曹士の最高位に位置する存在で海曹長が担っていた。
日露戦争の頃からいたと言われている「先任伍長」
大正8年3月20日に制令された旧海軍の「先任衛兵伍長」の規定は「艦内ノ警察、整頓、規律等二関スルコト二従事スル者二シテ適任ナル上級兵曹ヲ以テ之二充ツ」となっており、「先任衛兵伍長」が海上自衛隊の「警衛海曹」となり、警衛海曹の先任者が先任伍長と呼ばれるようになった。
部隊に寄り添っている者でなければ、任務の負荷、生活環境、勤務体制、家庭との両立といった、隊員が実感として抱える課題を敏感に察知することができない。また、訓練の安全管理、服務指導、生活全般の悩み、人間関係の緩衝など、隊員が口にしづらい問題も含めて吸い上げ、部隊等の長へ客観的な視点で助言を行う。これらの〝生きた助言〟は、部隊等の長にとって極めて貴重な情報源である。実際、海上自衛隊の部隊の先任伍長室には、幹部も含め、多くの隊員が訪れて話をしていく。幹部に成りたての隊員の話を先任伍長が聞いているという風景は、各地で見られる。これが任務達成に寄与することに繋がる。
さらには上位下達下位上達という重要な任務もある。上位下達は部隊等の長の言葉を階級の下の隊員に伝えることで、下位上達とは、階級の下の隊員の意見を部隊長に伝えることである。隊員とも部隊等の長とも信頼関係を作っていなければできない任務で、組織全体の士気と規律を維持し、任務遂行能力を高めるための専門的な職能と言えるだろう。
今まで先任伍長といえば、部隊等の長により指定を受け、当該部隊等の海曹士を統括し、部隊等の長を補佐する海曹長が就いていた。一方海上自衛隊における准尉は、士官室に勤務する高い専門技能を持つスペシャリストであり、幹部を補佐する職であるというイメージがある。しかし、曹士と幹部の間にいる准尉ではなく、准曹士と幹部の間にいる准尉という考え方に立ち返り、先任伍長を段階的に准尉が担う制度へと移行が進められることになった。先任伍長に就いてから部隊に戻り、准尉で定年というのは援護の観点からも一定の合理性があるのではないかと思う。まだまだ課題も残るが「何かあったら先任伍長に聞け!先任伍長のところに行け!」とは、部隊でよく聞く言葉。これからも「先任伍長」は部隊の頼れる存在であり、役割の幅を広げながら部隊等の団結の強化に大きく寄与していくことを期待されている。
■先任伍長の任務等
規律及び風紀の維持をはじめとする准曹士の服務の指導
部隊等の団結の強化
准曹士の士気の高揚等に係る活動の推進
上記に係る事項についての各部隊等間における情報交換等の推進
准曹士の人事業務に関する助言
ノーサイド
北原巖男
現場
通勤客や通学の生徒達で混雑する早朝の電車。久しぶりに乗り込みました。
活気ある、そして少し殺気立った人ごみに揺られていますと、防衛省に出勤していた当時の自分にふと重なる瞬間があります。と同時に、自衛隊員OBの一人として、こんなエールも浮かんで参ります。
「後輩のみんな、身体に気を付けて頑張れ!」
筆者の行先は、東京のど真ん中の新宿にある映画館。
朝一番8時10分から上演される「ウォーフェア 戦地最前線」(監督・脚本‥アレックス・ガーランド及び元アメリカ海軍特殊部隊シールズメンバーのレイ・メンドーサ)を観るのが目的。「戦争の現場で起きていること、その具体的なプロセスのみを徹底再現することを目指した異色作である。」(映画評論家 三浦哲哉 2026年1月16日付け日本経済新聞夕刊)を目にしたのがきっかけ。
この時間、新宿の歓楽街は、まだ昨夜の疲れで熟睡している感じでした。上映会場の観客も、ウイークデーの早朝から足を運んだのは筆者を含めて僅かに男性4人のみ。一見して若い方がいなかったことに、何かホッと致しました。
今から20年前、2006年のイラク中央部の危険地帯ラマディ。精鋭で名高いアメリカ海軍特殊部隊シールズの小隊が占拠している民家。アルカイダに完全に包囲され、猛烈な集中砲火に見舞われる。
筆者の記憶に残ったのは…精強・勇気・緊迫と恐怖・焦り・混乱・弱さ・普通の若者であり人間・統率・指揮官の指揮権放棄・一人ひとりに求められるリーダーシップ・ただ命令を受けるだけに留まらない持ち場持ち場における任務遂行・情報共有・情報途絶の中での瞬時の判断・相互信頼・一体感・みんなが生き残るため司令官を騙った軍規違反行動の決断・瀕死の重傷を負った仲間を絶対に見捨てない・重傷者に対するモルヒネの有用性と危険性・シールズに突然自宅を占拠されアルカイダの猛攻に引き込まれる普通のイラク人家族の恐怖と困惑そして怒り等々。
正にほうほうの体でみんなで民家から脱出するまでの体験を、当時のメンバーの証言を基に忠実に再現したという。プログラムに曰く「この映画は彼らの記憶だけに基づいている。(This film uses only their memories.)」
シールズの隊員たちは、アメリカ政府から与えられた戦争の「大義」に基づいて戦地最前線にて命を懸けた戦いに取り組みました。また、先般の米軍によるベネズエラ攻撃・マドゥロ大統領捕縛等においても、トランプ大統領やヘグセス国防長官から示された「大義」を忠実に実現するため、アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォース等の隊員も最前線の現場で命懸けで任務完遂を果たしたのだと思います
間もなく4年目を迎えるロシアのウクライナ侵略。絶対に許すことは出来ませんが、ロシア兵の皆さんは、プーチン大統領から示された特別軍事作戦の「大義」を果たすため、ウクライナ領内の最前線で命懸けで戦っているのだと思います。ロシアを支援する北朝鮮兵士の皆さんも、金正恩最高指導者から示された「大義」に基づいて遠路ロシア軍に参加し、最前線で戦い、命を落としたり負傷しています。
彼ら「大義」を発するリーダーの皆さんが戦地最前線に行かれることは、まずありません。日本の高市首相も小泉防衛大臣も同様です。現地に立つのは、「大義」をひたすら実施する最前線の隊員の皆さんです。
日本国民のリーダーとして政治家として、何よりも、日本国民を再び戦争の惨禍に巻き込むことの無いよう、したたかな政治力・外交力の展開に全力を尽くして頂きたいことは論を待ちません。併せて、事に臨んでは現地最前線に赴き、危険を顧みることなく任務の完遂に努め、以て国民の負託に応える隊員の皆さんをしっかりと理解し、かつ統制出来るシビリアン・政治家であって頂きたいと思います。そんな思いをしながら、点灯され明るくなった上映会場の席を立ちました。
日本では、高市首相が1月19日の記者会見で語った今解散することの「大儀」に基づいて、1月23日に衆議院は解散され、同27日に公示された衆議院議員選挙の投開票が今月8日に行われます。厳しい寒さや降雪・積雪の中、解散から投票までの期間が史上最短の激しい選挙戦が展開されています。選挙に係る全国各地の最前線の現場では、選挙準備に全力を挙げて取り組んでいます。命懸けと言ったら言い過ぎでしょうか。
高市首相が示した「大義」をどう受け止め、どう投票行動に繋げるか。有権者すべてが有する大切な一票です。全国の自衛隊員の皆さん・ご家族、そして本紙読者の皆さん、しっかり考え・しっかり投票し、現場の声を届けて参りましょう。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事