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自衛隊ニュース   1033号 (2020年8月15日発行)
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読史随感
神田淳
<第59回>

日本人の国家意識の欠如

 外交評論家加瀬英明は、国民の国家意識の欠落こそがわが国の危機であると言う。そして、国家意識が希薄になっているのは、日本にふさわしくない憲法を戴いてきたためで、国民に日本が国家であるという覚悟がないから、国民が憲法に真剣な関心をいだくことがない、と言う。
 また、中国から日本に帰化した石平は言う。日本には法務局や国籍管理の法律はあっても、肝心の「国家という意識」が完全に欠けている。日本という国家の重み、国家としての尊厳は一体どこにあるのか。世界中のどこの国にとっても一番大切なものだが、日本にだけは欠けている。しかし、このままでよいとは思わない。
 また、元衆議院議員の北神圭朗は、私たちは国家としての自分を見失っています、いや、「国家」という言葉さえ、違和感をもたれていますと言う。北神氏は、子供の頃からアメリカで生活し、旧大蔵省に入り、国会議員として政治活動をしてきた人であるが、米国以外の様々な国の人たちとの交流を振り返っても、やはり、わが国にはあまりにも「国家の物語」が欠落していると言わざるを得ません、と言っている。
 私が新たに言うまでもなく、日本が国をあげて戦った大東亜戦争での徹底的な敗北が、日本人に国家否定の感情をもたらした。戦後教育界に根強く存在した国旗(日の丸)と国歌(君が代)を否定する勢力は、この感情を象徴している。GHQは、軍国主義と「極端な国家主義」を鼓吹したという理由で、修身、歴史、地理の3教科を学校教育で禁じた。そして、東京裁判によって日本人は軍の指導者とともに日本の国家が裁かれたと感じた。
 国家とともに悲惨な戦争を経験した日本人は、国家意識即戦争という呪縛に陥った。本格的な国家論を避けるようになり、国家意識などもたずに生きる道を選択して、それが現在まで続いている。しかし、私も冒頭の識者が言うように、これでいいとは思わない。国家意識は日本の国の独立と生存の根本にかかわることだからである。
 かつて、社会の生産力の発展とともに国家は消滅するという社会科学の理論があった。また、経済のグロバリゼーションの進展とともに国家の役割は減るとの見方があった。しかし、昨今、グローバリゼーションはむしろ後退し、主権国家のナショナリズムがより強く出る世界となっている。
 今年コロナウィルスの拡散が世界にパンデミックを起こしているが、この対策に責任をもったのは、国連WHOでもなく、EUでもなく、各国の政府、すなわち主権国家である。どの人間集団でも生存が脅かされれば、それを救うのはその集団の属する主権国家の政府であるという当たり前のことが起きている。
 今後国家の役割と重要性が減ることはない。人類は国家を形成し、国家とともに、国家の中で生きてきた。国が乱れれば国民の生活は脅かされる。国が他国に支配されれば国民は忍従を強いられる。国民の権利、生命、財産も蹂躙され、国土は荒廃する。国が滅べば国民の歴史、文化、伝統も失われる。国民は国家と運命を共にするのである。
 戦後75年、われわれ日本人の国家意識の欠落が今なお続いているのは異常と言わなければならない。現在の日本をとりまく国際環境は、戦後間もない頃から大きく変化し、むしろ日本の国家の存立が深刻に脅かされた江戸末期の頃に近くなっている。
(令和2年8月15日)

神田 淳(かんだすなお)
 高知工科大学客員教授
著作に『すばらしい昔の日本人』(文芸社)、『持続可能文明の創造』(エネルギーフォーラム社)、『美しい日本の倫理』などがある。


令和2年度第1次連隊野営
<第31普通科連隊>
 第31普通科連隊(連隊長・川村恭也1陸佐=武山)は、6月23日から27日までの間、東富士演習場において「令和2年度第1次連隊野営」を実施した。
 本訓練では、新小火器射撃訓練基準の検証(第5中隊担任)、87式対戦車誘導弾実射訓練(第2中隊担任)、爆破訓練(本部管理中隊担任)等の射撃訓練を主体として実施した。
 現在もなお、猛威を振るう「新型コロナウイルス感染症」の感染及び感染拡大防止策を確実に施したうえで、即応予備自衛官招集訓練を並行して実施し、本野営では37名が参加した。
 連隊は、即応予備自衛官の訓練出頭時には、新たな生活様式の実践として、三密を避けるための距離の確保、マスクの着用等、衛生管理の徹底を図った。
 今年3月に33連隊(久居)から転入した、第5中隊・秋庭秀成2陸曹は、「転入後、初となる連隊野営に参加した。本野営において、各種訓練実施間の基本基礎動作の確行と、問題点の改善に取り組む、その姿勢は他部隊に劣らないと感じ取れた。今後も中級陸曹として、自らの技能向上に精進していきたい」と語った。
 新型コロナウイルスの影響は、依然として猛威を振るっている状況にあるものの、連隊は、訓練においても引き続き態勢を確立しつつ練成を継続し、練度向上に邁進する。

HTC第1次運営終了
陸自最大級の実動対抗演習
教育訓練研究本部
 6月30日〜7月8日までの間、陸上自衛隊教育訓練研究本部長(田中重伸陸将)を担任官として、矢臼別演習場(北海道)において令和2年度北海道訓練センター(HTC)第1次運営が実施された。
 本運営は、本年3月26日に北千歳駐屯地において新編された訓練評価支援隊(隊長・山下博二1陸佐)の初めての運営となり、演習は訓練評価支援隊長を統制官として2個の普通科連隊を基幹とする諸職種協同部隊が攻撃・防御の戦術行動を行う実動対抗演習として行われ、攻撃部隊として第7師団第11戦闘団(戦闘団長・小出昌典1陸佐)が、防御部隊として第9師団第39戦闘団(戦闘団長・木原邦弘1陸佐)が参加し、訓練評価支援隊の統制・評価により諸職種協同に係る練度の向上を図ることができた。
 統制官となる訓練評価支援隊長の山下1陸佐は、本運営の状況開始に先立ち実施された統制センター編成完結式の訓示において「実動対抗演習が最大限の成果を獲得できるよう統制を実施せよ」「自己の任務・地位・役割を踏まえて積極的に行動せよ」と要望するとともに、3月の新編行事において教育訓練研究本部長から贈られた言葉、輸攻墨守(しゅこうぼくしゅ・中国の古事)を引用し、「攻める方も、守る方も知恵をつくし万策をもって戦える場(訓練環境)を提供すること」をHTCの基本理念として本運営に臨むことを改めて隊員に徹底した。また、6月30日に状況開始された本運営は、陸上自衛隊唯一の機械化連隊第11普通科連隊を基幹とする第11戦闘団と、富士訓練センター(FTC)訓練において史上初となる「対抗部隊の撃破」を成し遂げた第39普通科連隊を基幹とするする第39戦闘団との間で約9日間に亘る攻防が繰り広げられ、7月8日、所要の成果を収めたものと統制官が判断し、状況を終了した。
 訓練評価支援隊が統制する運営は、交戦用訓練装置による審判を基本として、安全確保に必要な統制以外の制約は努めて排除され、攻防いずれかの任務達成まであらゆる部隊行動が演練可能となっている。その中で得られた教訓は訓練評価支援隊の上級部隊である教育訓練研究本部において収集・蓄積し、全国の陸上自衛隊に普及・反映されることになる。また、本運営はコロナ禍での運営となったが、各種の対策を講じて一人の罹患者を出すことなく運営を終了し、コロナ禍での運営の在り方の教訓を得ることができた。
 引き続き訓練評価支援隊は、陸上自衛隊全体の練度向上に資するため8月末から9月に計画されている第2次運営への準備にとりかかる。

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