「8月6日そして8月9日は、人類にとって大変大きな歴史的な日です。決して風化させるようなことがあってはなりません。先の大戦時、(宗主国の)ポルトガル同様、当時のポルトガル領東ティモールも中立でしたが、オーストラリア・オランダ連合軍や日本軍によって大きな影響を受けました。今、私たち東ティモール国民は、心から平和を願っています。私は、東ティモール国民を代表して、10年ぶりに広島と長崎の平和祈念式典に参加することを通じて、東ティモール国民に改めて伝えたいことや、東ティモールで行動すべきことなどを学びたいと思います。更に、先の大戦で亡くなられた全ての方々への追悼と連帯の気持ちを心から表したいと思っています」
去る7月2日、天皇陛下に信任状を捧呈し、大使としての活動を開始されたばかりのイリディオ新駐日東ティモール大使の言。かつて日本軍に占領され、また、激しく厳しい独立回復闘争を経て、現在は平和の中で国づくりに取り組んでいる東ティモール。国民をリードする政治家の一人であるイリディオ大使が、日本における最初の国家的式典に臨む思いを語ってくださいました。
筆者の自宅の隣に住まれている今井玲子さん。広島での被爆者です。当時11歳。
彼女は、「ふたたび被爆者をつくらないために-世田谷・被爆者の証言 第三集-」(2008年11月7日 世田谷・被爆者の声を記録する会編集・発行)の中で、「六〇年たっても忘れられない臭気」と題して、壮絶な被爆体験・不眠不休での救援・看護体験を記しています。あまりの惨状に、筆者は震えが止まりませんでした。
そして最後に「今後も戦争がない世界が理想ではあるが、実現は難しい。核兵器は、他の兵器とはぜんぜん異質な兵器であり、どんな戦争状態にあっても、使うべきではなく、万一お互いに使い合った場合には、双方互いに壊滅という認識を、世界中の、特にアメリカの一人ひとりに持ってもらわなければと思う。」と結んでいます。
そんな彼女は、いつも熱く語っています。
「出来るものならアメリカに行って、アメリカに行けなければ、日本にいるアメリカの皆さんに訴えていきたい!」
新型コロナウイルス感染拡大が依然続く中、去る6月23日の沖縄全戦没者追悼式に続き、広島、長崎における原爆の日の平和祈念式典、更には8月15日の全国戦没者追悼式という、私たちが「決して忘れてはならない4つの日」の式典は、軒並み劇的に規模が縮小されています。全国戦没者追悼式は、毎年、遺族の皆さんなど6000名ほどが参列していますが、今年は、その2割ほどに減らし最大1400人程度の由。規模の縮小は、1963年の式典開始以来初めてとのことです。感染防止の為、密を避ける止むを得ない措置ではあります。
しかし、私たちが肝に銘じなければならないことがあります。
それは、コロナ禍対応を機として、私たちが「決して忘れてはならない4つの日」を、いつの間にか風化させて行ってしまう事態は、絶対に生起してはならないことです。
後世の為、今を生きる私たちには、そのような気配や風潮を看過したり黙認してはならない責任と義務があると思います。
例年よりも格段に厳しい環境の中で迎えたあれから75年目の8月。
ふとアメリカの公民権運動の指導者キング牧師の言葉が浮かんで参ります。
「憎しみの誘惑に決して屈してはならない」
真摯に謙虚に、歴史に学ぶ機会を作り求めて参りましょう。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |