防衛ホーム新聞社・自衛隊ニュース
スペーサー
自衛隊ニュース   1040号 (2020年12月1日発行)
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ノーサイド
北原巖男
超音速旅客機「コンコルド」

 2020年最後の月を迎えてなお、私たちは今ある人類最大の脅威新型コロナウイルスに勝利する確信を有するに至っておりません。むしろ冬の気配を感じる11月中旬頃からは、一日の感染者数が日々過去最高を記録するなど、事態は深刻化の一途をたどっています。
 マスク着用・3密の回避・手洗いの徹底は、私たち誰にでも出来る、誰もがしなければならない新型コロナウイルス打倒に欠かせない行動です。それはまた、家族や仲間・友人のみならず全ての人々に対する温かな思いやりであり、命懸けで感染者の命を救うため24時間態勢で戦っている医療従事者の皆さんに対するかけがえのない信頼の支援活動そのものでもあります。
 コロナ禍との戦いに中止はありません。更にどんなにお金と労力を費やしても、最後の最後まで、何としてもやり遂げなければなりません。それ以外の選択肢はありません。
 このようなコロナ禍との戦いが続く中、真っ向対極をなすのではないかと思われる言葉に最近出会いました。「コンコルド効果」。僕の当初の反応は、「なんだ、それ?」。
 実は、この言葉の語源は、かつてのマッハ2を超す超音速旅客機「コンコルド」。通常5時間ほどかかるニューヨーク・ロンドン間を3時間ほどで飛行する世界で一番早い英仏共同開発の旅客機。機首が鶴のくちばしのようにとんがってチョット下向き、細身で三角の翼。日本には1972年6月に初飛来。1979年6月、日本で初めて開催された「東京サミット」には、フランスのジスカールデスタン大統領一行も同機にて来日されています。
 しかし、この航空機は、1969年から僅か20機ほどが生産されたに留まり、2003年には運航を終了。失敗機でした。
 そもそもコンコルドは、開発段階から、製造コストが高い・燃料の消費が激しい・乗員数は100名までが限度・運賃が著しく高く利用者は増えない・飛行航路や乗り入れ先が限定・維持費やメンテナンス経費が高い・売れない・開発費の回収は困難・航空会社は採算が取れないことなどが分かっていたとのことです。
 すぐに開発を中止することが最善の選択肢であったにもかかわらず、投資を継続し、何兆円もの赤字を出すに至りました。途中でやめた方が経済的には損失は少なくて済んだのですが、これまでせっかく投入して来た多額の金額や時間・大変な労力等が無駄になってしまう、水泡に帰することは「もったいない」との気持ちが、物事を客観的に判断することを不可能にしてしまった。どんどん深みにはまって行ったのです。
 「コンコルド効果」は、いわば後ろ髪をひかれて中止の判断が出来ない心理状態を言うとのことです。
 このような「コンコルド効果」は、現在においても、大は国家的プロジェクトから各種組織や企業等の事業、更には僕たち一人ひとり生き方・身の回りの行動に至るまで、とかく人間が陥りやすい心理状態のように思えます。
 これまで全力を投入して進んで来た道であるからには、「何が何でも成し遂げなければならない」との思いのあまり、ズルズルと中止すべき時機を失してしまう。大きな問題等を認識して、次善の道、或いは次々善の道、更には次々々善の道を選択する客観的な判断をすることが将来に向けての最善の選択であるのにも拘わらず、中止する決断が出来ず当初計画にしがみついて行く。その結果は、最悪の判断・行動となる…。
 コロナ禍との厳しい戦い真っ只中にあって、さまざまな重要なプロジェクトや事業の策定そして遂行に懸命に取り組んでいる皆さん。そうした皆さんに、既にこのような「コンコルド効果」が働いている懸念はありませんでしょうか?このささやかな拙稿が、改めて皆さんが自戒する機会の一助になれば幸いです。
 そして僕たち個々の人生について考えた場合も、極論すれば、最善と思った道をズット歩み続けている人など、一人もいないと思うのです。一生懸命頑張って来たけれど途中で中止して他の道を選択する。それは、決して永久の挫折ではありません。今までの厳しい経験を心のバネに、新しく選択した道に一歩踏み出す。自ら、これまで想像だにしなかったやりがいや生きがいを実感する人生の扉をこじ開けて行く。
 時機を失しない客観的な判断が出来、進むべき道の変更を決断出来る冷静な勇気あるところに、コンコルドは飛んで来ないと思います。
 頑張ってください!

北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現(一社)日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事


客員研究員を招へい
民事に関する研究を実施
<教育訓練研究本部>
 10月27日、教育訓練研究本部(本部長・田中重伸陸将=目黒)は本年7月に施行した「客員研究員制度」に基づき、国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授の中林啓修(なかばやし・ひろのぶ)氏を客員研究員に招へいした。
 客員研究員制度は、教育訓練研究本部の調査研究の充実を図るため、国内外の研究者等を受け入れる制度であり、危機管理学、国際関係論、ガバナンス理論及び非伝統的領域を含む安全保障研究が専門の中林准教授は客員研究員として民事に関する研究を実施する予定。
 中林氏は平成20年に慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科後期博士課程単位満了修了、平成22年に同大学にて博士号(政策・メディア)取得。株式会社独立総合研究所研究本部社会科学部(専門研究員のち主席研究員)、明治大学危機管理研究センター(研究員)、沖縄県知事公室地域安全政策課主任研究員、ひょうご震災記念21世紀研究機構人と防災未来センター主任研究員を歴任。現国士舘大学防災・救急救助総合研究所准教授。

ウォーゲームを活用した英語教育
<空自幹部学校>
 11月5日、航空自衛隊幹部学校(校長・柿原国治空将=目黒)は、指揮幕僚課程(CSC)における英語教育の一環として、ウォーゲームを用いたコミュニケーション訓練を実施した。
 ウォーゲームとは、歴史や将来の可能性をシミュレートする、駒や地図を使ったボードゲーム。市販のものが活用でき、工夫次第で戦略的な高度化も可能なため、簡便性と柔軟性に優れた「簡易な図上演習」ともいわれる。欧米諸国軍隊では教育訓練で活用されており、航空自衛隊幹部学校においても今後の図上演習や各種研究への活用のため、今年から研究が進められているところだ。CSC課程で英語教育を担当する交換将校のドバフル中佐が、ウォーゲーミングを英語教育に取り入れたいと発案し、今回初施行された。
 本訓練では、45名の学生(3佐〜1尉)が5つの色の国に分かれて各国の国家戦略の達成を目指した。もちろん訓練中は「英語」のみ。限られた時間内でどれだけ正確に戦略方針の伝達をできるかが勝負の決め手となる。学生の中には本来の命令通りに伝わらないもどかしさを感じた者もいただろう。ドバフル米空軍中佐は「今持っているもの(英語能力)だけを工夫して意思を伝える技術を養ってほしい」と熱く期待を語る。そこには国際会議で言葉の壁により消極的になってしまう日本人を鼓舞する思いがある。
 また、柿原学校長とともに視察した副校長の坂梨弘明空将補は「学生たちは、活発で主体的なコミュニケーションがとれていた。座学で講義を受けるだけとは全く違う教育効果があった」と評価。今回の教訓を活かし、今後も活用していく意向を示した。

20km長瀞行進訓練
<防衛医科大学校・看護科>
 11月13日、汗ばむ様な陽気の中、埼玉県所沢市にある防衛医科大学校(学校長・長谷和生)看護学科2学年(自衛官コース)による「長瀞行進訓練」が実施された。これは、将来の幹部自衛官として必要な基礎的事項を錬成するとともに衛生科職種に関する部隊などを研修し、幹部自衛官としての職責を理解させ必要な識能や資質を育成するために行われるもの。
 埼玉県長瀞町近辺約20kmをマスクをしたまま歩くこの行進訓練は、新型コロナ対策に最善を尽くし、健康観察は2週間前から行った。行進時だけでなく移動の際の空間環境や民間施設使用時、車両の乗降時などにも配慮。それ以外に通常の安全管理も勿論行い、団結心と規律心を修得した。
 72名の学生の9割が女子学生という行進状況を見て、「カッコいい!可愛らしい!」などと通行人。遠足に来ていた小学生は「あ〜自衛隊の人ぉ」と言いながら敬礼をしていた。「女の自衛隊の人?」と同行していた筆者も聞かれ「自衛隊の看護師の卵です!」と得意げに何人にも答えた。15時になると長瀞町にラジオ体操の音楽が流れた。反射的に体を動かす学生たち。キツイはずなのにとにかく明るい学生たち。災害現場や今年初めの横浜港内に入ったダイヤモンドプリンセス号の中などで「自衛隊看護師さんの優しさと明るさに救われた」と従事している人からも良く聞いていたが、「これかぁ〜」と納得した。
 今回の計画を立て学生をまとめた市川学生は「今日は本当に良かった。終わってスッキリした!」と笑顔で感想を述べてくれた。
 一般の看護師とは違い、自衛官でもある防医大の学生たち。日々の努力を垣間見、辛いことも笑顔で乗り切る底力を見た気がした。頑張れ、看護科学生たち!

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