本屋大賞。
毎年、 "全国の書店員の皆さんが選んだ いちばん! 売りたい本" 。
2024年の受賞作品は、宮島美奈さんの青春小説。
一報を聞いたとき、僕はそのタイトルに魅せられました。
「成瀬は天下を取りにいく」(2023年3月15日 新潮社刊)
成瀬って、誰?どんな人なんだろう?天下を取りにいくって、元気だなぁ・・・。
急ごう!僕は軽快な足取りで本屋さんに向かいました。お目当ての本はレジの真ん前に沢山横積みされ、すぐに見つかりました。表紙は、西武ライオンズのユニホームを着用し、指を鼻にあてて、前をしっかり見据えている女の子。帯には、「かつてなく 最高の主人公、現る!」
主人公は、素のおばあちゃんとして二百歳まで生きるつもりの中高生時代の成瀬あかりさん。ちょうど僕の孫娘と同じ年頃。
あかりさんの、断固としたどこまでも真剣一直線、先行きどうなるか全く分からない挑戦。僕から見ると、彼女の気持ちはわかるけれど無理じゃないのかなぁ、でも、ひょっとするとありうるのかもしれない。そんな気にさせる、何かとてつもなく明るく楽しい一途な挑戦の数々。彼女の言動が真面目・真剣であるだけに、思わず吹き出したくなるような場面も。
読み進めて行く途次、こんなくだりがありました。「唐突に、成瀬さんが好きだ、と思った。認めた、と言ったほうが正しいだろうか。もっとそばにいて、もっと話を聞いていたい。」
文中のあかりさんを見ていると、僕の中に、あの大好きな人がお馴染みの音楽と一緒に現れて来ました。あかりさん自身、また若い自衛隊員の皆さんからは、「知らない。名前だけは聞いたことがあるかも」と言われるかもしれません。
Yes,人呼んでフーテンの寅さん、車 寅次郎さんその人です。いいなぁ。どこか、あかりさんに重なって来るのです。
彼は、こんな言葉も残しています。
「人は人。自分は自分。決めつけるのは良くない。」
「なんというかなぁ・・・あー、生まれてきてよかった!そう思うことが何べんかあるだろう。そのために人間生きてんじゃねぇか?」
人との出会い、本との出会いも、そうかもしれません。
さらには、アメリカからフランク・シナトラさんの「My Way」の歌声も聴こえて来ました。
長い英語の歌詞は、僕には良く分かりません。でも、そのメロディと「I did it my way」のフレーズを忘れはしません。
あかりさん、そして現実に今を生きている自衛隊員の皆さん・ご家族の皆さん、本紙読者の皆さんはじめ全ての皆さん。それぞれの夢と信念を持って、「マイウェイ」、「自分の道を行く」です。
そんな皆さんに、心から力いっぱいのエールを送ります。
著者の宮島美奈さんは、語っています。
「先のことは分からない、が小説のテーマ。良い未来が待っている可能性もある。」(2024年4月16日付け 日本経済新聞夕刊「文化往来」欄より)
「御意!」思わず頷いている僕がいました。
ところで、今年の母の日は、5月12日。皆さんのお母さんは、自分のことよりも皆さんのことを心配され、応援されています。「元気かい?ちゃんと食べてる?あんまり飲みなさんなよ。車にも気をつけなさいよ」等々。きっと、いつも同じことを皆さんにおっしゃっているのではないでしょうか?
そんなお母さんに、あなたは不愛想な対応をしていませんか?
忙しいことにかこつけて、久しく会っていないのではないでしょうか?
今からでも遅くはありません。思い立った日があなたの母の日。
僕の母はもういません。今なお、後悔先に立たずです。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |