令和5年度の防衛基盤整備協会賞に輝いた「複合通信空中線(NORA- 50)の開発」は我が国の海上防衛力の強化に大きく貢献する技術である。これまで艦艇のマストに配置されている個々の空中線群を相互干渉のない最適配置、RCS低減、耐雷性確保、整備性向上、ぎ装簡略化などを考慮して1つの空中線システムとして統合することを目指して開発されたものである。開発は日本電気株式会社を主契約者として三波工業株式会社、横浜ゴム株式会社の各技術と長年のノウハウを結集して行われた。
NORA-50(通称UNICORNはUNIfied Complex Radio aNtennaの略称)の構成は図のとおりである。これまでマストで一番優位な位置を占めざるを得なかったTACAN空中線の形状を従来の円盤型から、艦載用としては世界的に例のない中空のドーナツ型へと変更しマスト下方に配置。それにより、ES空中線をマストトップに配置することができ、脅威が発する電波の最大探知距離向上に貢献した。さらに各空中線や支柱の形状についても、RCSシミュレーションから導いた最適形状としたことでUNICORNの低RCS化を実現し、結果、搭載プラットフォーム全体のステルス性能向上に大きく寄与している。また、装置全体をレドームで覆うことで耐候性を向上させるとともに、従来の避雷針から航空機用の耐雷部品としても実績のあるダイバータストリップをレドームに装着でき、空中線の電波視界や電波透過性に影響を与えることなく、内部機器を雷撃から保護している。
艦艇へのぎ装においても、従前のように各空中線メーカーが各自の製品を建造所に納入し、一つ一つ装備していく方法ではなく、8つの空中線が組み込まれた本装置を艦艇上部に搭載するのみで装備が完了するため、作業面、工程面においてぎ装の簡略化を実現した。
UNICORNの開発は平成27年度にさかのぼる。当年度に護衛艦搭載空中線の統合化実現可能性についての勉強会や基礎資料作成などを行い、平成28年度から2年間にわたり空中線統合化に向け空中線同士の電波干渉の影響、質量バランス、被雷をはじめとする耐環境性の検討及びそれらの仮作・試験評価をおこなってきた。平成30年度には、防衛装備庁と2式分の量産契約が締結され、令和2年度に初号機が海上自衛隊に納入された。以降「もがみ」型護衛艦の建造計画に伴い、年間2式ずつ令和5年度までに合計8式が納入される。
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受賞にあたって3企業は、引き続き協力体制のもと、今後も継続的に製造を行うとともに、将来ビジョンとしてカスタマイズ性に重点を置き顧客や艦艇の運用ニーズに合わせた空中線に仕様変更する等のバリエーション化にも対応していくとしている。 |