4月20日、22時38分頃、海上自衛隊単独の夜間対潜戦訓練中だったSH-60K哨戒ヘリコプター3機のうちの2機が、伊豆諸島鳥島東の洋上にて通信途絶しました。各機にはそれぞれ4名づつ、2機合わせて8名の海上自衛隊員が搭乗されていました。
木原防衛大臣の、21日深夜午前2時23分からの臨時記者会見。「機体の一部と思われるものを洋上で確認しており、当該2機は、墜落したものと考えられます。・・・現時点において、同機が墜落したと考えられる原因等については不明ですが、まずは何よりも人命の救出に全力を尽くして参ります。」
これまでに収容された海上自衛隊員は1名。残念ながら死亡が確認されました。22日現在、行方不明の7名の隊員について、海上自衛隊と海上保安庁が懸命な捜索を進めています。
任務に殉じられた海上自衛隊員そして残されたかけがえのないご家族の皆様に、心からお悔やみ申し上げますと共にご冥福をお祈り申し上げます。
四面環海の我が国にあって、中国をはじめとする我が国を取り巻くかつてない厳しい国際軍事情勢が続く中、今回の墜落事故のニュースに接した多くの国民の皆さんは、大変驚かれ、そして残念に思われたのではないでしょうか。
週末土曜日にも拘わらず、こんな夜遅くに、本土から遠く離れた水深5,500mもある太平洋上で、海上自衛隊の護衛艦の乗組員と哨戒ヘリコプターの搭乗員が連携を密にしながら、黙々と、困難な対潜戦訓練を実施していることに。そして、その任務遂行中に、あろうことか2機のヘリコプターが墜落し、8名もの隊員が巻き込まれたことに。
平時に妥協を許さない厳しい訓練を重ね、隊員そして部隊の練度を上げていてこそ、あらゆる事態発生に際して、国民の負託に応え得る自衛隊員であり自衛隊です。一人海上自衛隊だけではありません、陸上自衛隊・航空自衛隊の皆さんも、常日頃から厳しい訓練に努めています。有事に備えるため、これからも厳しい訓練を続けて行かなければならないことは言を待ちません。
しかし、その自衛隊で、あってはならない航空機事故が続いています。これまでも、事故が生起する度に、原因を究明し、再発防止策を定め、その徹底を図って来ているはずなのですが。残念でなりません。訓練は、様々な過酷な現場・事象の下で行われます。予め隊員の皆さんの体調管理には十分留意されると共に、安全対策の厳守を改めてお願いしたいと思います。かけがえのない隊員を失ってはなりません。
・・・事故に巻き込まれた本人の無念さ、ご家族の悲しみ、仲間を失った部隊の皆さんの苦しみを、筆者が拝察申し上げることなどは、とうてい出来ることなどではありません。
先日訪米した岸田首相は、4月10日にバイデン大統領と会談。その中で、 "岸田首相は、国家安全保障戦略に基づき、反撃能力の保有や、2027年度の防衛費とそれを補完する取り組みに要する予算水準を2022年度のGDPの2%に引き上げるなど、強い決意を持って防衛力の強化に取り組んでいることを伝え、バイデン大統領から改めて強い支持を得ました。その上で、両首脳は、日米同盟の抑止力・対処力の一層の強化が急務であることを再認識し、米軍と自衛隊の相互運用性強化のため、それぞれの指揮・統制枠組みを向上させることを含め、安全保障・防衛協力を拡大・深化していくことで一致しました。" (4月10日付け、外務省HPより)
更に、4月11日に米国連邦議会上下両院合同会議で行った「未来に向けて〜我々のグローバル・パートナーシップ〜」と題する演説の中で、岸田首相は、次のように言明しています。
「現在の中国の対外的な姿勢や軍事動向は、日本の平和と安全だけでなく、国際社会全体の平和と安定にとっても、これまでにない最大の戦略的挑戦をもたらしています。」
「今この瞬間も、任務を遂行するため自衛隊と米軍の隊員たちは、侵略を抑止し、平和を確かなものとするため、足並みをそろえて努力してくれています。私は、隊員たちを賞賛し、感謝し、そして、隊員たちが両国から感謝されていることが、私たちの総意であることを知っています。」
「"自由と民主主義"という名の宇宙船で、日本は米国の仲間の船員であることを誇りに思います。
共にデッキに立ち、任務に従事し、そして、なすべきことをする、その準備はできています。
世界中の民主主義国は、総力を挙げて取り組まなければなりません。
皆様、日本は既に、米国と肩を組んでともに立ち上がっています。
米国は一人ではありません。
日本は米国と共にあります。」(4月11日付け、外務省HPより)
日米首脳会談での発言や共同声明・米国連邦議会での演説は、国際公約です。
岸田首相はじめ防衛省・自衛隊は、まず国民の皆さんにしっかりと説明しなければなりません。疑念があればそれを晴らすための真摯な努力を重ね、以て理解と支持を得て行く責任があります。
そうした中、自衛隊員の皆さん、防衛省・自衛隊の任務はこれまでになく重大です。そして、いざというときに、それぞれに与えられた任務を完遂し、国民の負託に応えるためには、常日頃からの厳しい訓練の徹底が不可欠です。
筆者には、今回の厳しい訓練中に墜落事故に巻き込まれた皆さんが、自衛隊の仲間・皆さん達に対し、訓練中の安全確保の徹底を命懸けで訴えておられるように思えてなりません。
「事故だけは、俺たちの後に絶対続くな!」
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |