2023年も、余すところ2週間足らず。正に脱兎のごとく過ぎようとしています。
しかしこの間、自衛隊員の皆さんやご家族・本紙読者の皆さんに、或いは、所属部隊など皆さんの身近に、様々なことがあった1年だったかも知れません。嬉しかったこと、決して忘れることが出来ない辛いこと、万感こめて回想するあの時のこと等々。
〇自衛隊員の皆さんは、旺盛な責任感をもって、危険を顧みず、わが国の平和と独立を守る崇高な任務の完遂に努めて来ています。その中で、任務の遂行中に、不幸にしてその職に殉じた隊員もおられます。
その人数は、令和5年10月21日、自衛隊最高指揮官である岸田文雄内閣総理大臣が参列して挙行された「令和5年度自衛隊殉職隊員追悼式」にて、新たに顕彰された26柱(陸自20柱、海自5柱、空自1柱)の皆さんを含め、警察予備隊以降、2080柱(陸自1122柱、海自490柱、空自437柱、機関31柱)もの皆さんに及んでいます。
直ぐに思い出されるのは、本年4月6日、宮古島沖にて陸上自衛隊UH-60JA多用途ヘリコプターに搭乗していた隊員10名全員が亡くなられた墜落事故。更には、6月14日、自衛官候補生の銃撃により2名の隊員が逝去された陸上自衛隊日野基本射場(岐阜市)での衝撃的な事件が浮かんで来ます。
ご家族や仲間の皆さんの悲しみを拝察申し上げることは、とても出来ることではありません。心から哀悼の意を表したいと思います。
いずれも、決してあってはならない、繰り返されてはならない、事故であり事件です。かけがえのない一人ひとりの隊員の命を守るためには、徹底的な原因究明と、それに基づく再発防止策の厳守が不可欠です。
防衛白書は、例年「殉職隊員への追悼など」との見出しで、簡潔な説明と共に、自衛隊殉職隊員追悼式にて内閣総理大臣が追悼の辞を述べておられる姿や、儀じょう隊による弔銃発射などの写真を掲載して来ました。
しかしながら、「令和5年度防衛白書」では、そのような写真が消えてしまっています。
自衛隊殉職隊員追悼式は、殉職隊員の功績を永遠に顕彰し、深甚なる敬意と哀悼の意を捧げるため、ご遺族の皆さまはじめ内閣総理大臣等約300名が参列して挙行される自衛隊員の心の根幹に係わる究極の儀式です。その際の写真は、殉職隊員とそのご遺族や仲間の皆さんに寄り添う温かい心の写真と言っても過言ではないのではないでしょうか。
〇「令和5年度の防衛白書」を含め、最近の防衛白書には、かつて同白書の「資料編」に掲載されていた1945年からの「防衛年表」(防衛・国内・国際)が、全面的に削除されています。何時の防衛白書から削除されたか、僕には分かりません。きっと、防衛白書全体のボリュームとのバランス等から今日に至っているものと思われますが、とても重宝した公刊資料でした。
その時代時代の国内・国際社会の大きな動きや背景、そうした中での防衛に関わる様々な方針や活動を理解する一助としての情報提供は、「防衛白書」の内容を広く国民の皆さんに訴え、点ではなく線として面としての理解と支持を得て行く上で、極めて重要なことではないでしょうか。掲載の仕方を工夫することによって、ボリュームを抑えることは可能だと思います。
〇12月16日から18日まで、岸田文雄総理大臣主催の「日アセアン友好協力50周年特別首脳会議」が開催されます。開催に先立って、岸田総理は、「過去50年間にわたる日本とASEANの協力の歴史を踏まえ、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序に向けた取組を世界に力強く発信する」旨表明しています。(首相官邸HP)
防衛省自衛隊においても、ASEANとの関係は、これまでも共同訓練や能力構築支援・人材育成等を始め、様々な信頼醸成構築に努めるなど、密接な連携に努めて来ています。
更に、「日ASEAN防衛担当大臣会合」については、2014年11月にミャンマーで開催された第1回会合に当時の江渡聡徳防衛大臣が参加して以来、防衛大臣は毎回参加。本年11月、インドネシアで開かれた第8回の同会合(議長‥ブラボウォ国防大臣 2024年2月の大統領選挙に立候補)には、木原 稔防衛大臣はオンラインで、宮澤防衛副大臣が現地で参加しました。「ASEAN諸国からは、今後も日本とASEANが緊密に連携し、より一層地域の平和と安定に向け重要な役割を果たしていくことへの期待が示されました。」(11月15日付 防衛省「木原防衛大臣による第8回日ASEAN防衛担当大臣会合への出席について(概要)」より)
過去、例えば、ラオスで開催された第2回(2016年)会合には稲田朋美防衛大臣が、カンボジアで開催された第7回(2022年)会合には岸 信夫防衛大臣が参加されています。議長は、いずれもそれぞれの国の国防大臣が務めて来ました。
こうした中で、「令和5年度防衛白書」の「東南アジア各国の安全保障・国防政策」の記述を見てみますと、ASEAN10か国のうち7か国(インドネシア・マレーシア・ミャンマー・フィリピン・シンガポール・タイ・ベトナム)については、それぞれ個別に紹介がなされています。しかし、ラオス・カンボジア・ブルネイの3か国については、何故か国名さえも欠落しています。ちなみに外務省編集の「外交青書2023」には、「東南アジア」の見出しの下、東ティモールを含む11か国すべてについて個別に記述されています。(なお、東ティモールは、昨年11月のASEAN首脳会議において、加盟時期は未定ですが加盟することが決まりました。同国は、前述のインドネシアでの第8回会合にも参加しています。この度の日アセアン友好協力50周年特別首脳会議にも、首相・副首相・アセアン担当副外相等が参加します。)
我が国を取り巻く厳しい国際環境の下、急速に力を付けて来ているASEAN。関係強化は死活的に重要です。
防衛白書についても、東ティモールを含むラオス・カンボジア・ブルネイに対する取り扱いは、再考する時に来ているのではないでしょうか。
北原 巖男(きたはらいわお) 元防衛施設庁長官。元東ティモール大使。現日本東ティモール協会会長。(公社)隊友会理事 |