民生技術の募集も
教育訓練研究本部(本部長・廣惠次郎陸将=目黒)は2月22日、陸上自衛隊の将来の戦い方や部隊実験に関する事項を広く企業に知らせ、各企業から技術提供を受ける基礎作りを目的として、教育訓練研究本部セミナーを目黒駐屯地にて開催した。
冒頭、廣惠本部長がセミナー開催のあいさつを実施するとともに、改めて教育訓練研究本部の役割等についてパンフレット等を使用して紹介したのち、陸上自衛隊の将来の戦い方や令和5年度部隊実験に関する説明及び将来作戦構想に資する技術情報の募集を行った。
セミナーの後段では、「将来の陸自のAI利用の方向性」をテーマにパネルディスカッションを実施。陸自きってのAIスペシャリストである高木耕一郎1陸佐(ハドソン研究所)、青木圭1陸佐(防衛装備庁)、川岸卓司3陸佐(開発集団)をパネリストとし、菊池裕紀1陸佐(教育訓練研究本部研究部)をモデレーターとして、各国でのAI導入の取り組み状況や、AIの陸自実装における技術的可能性と課題等について紹介を行ったのち、議論を交わした。併せて各企業の関心事項について質疑応答を行い、産官の連携を一層密にした。
なお各企業からの技術情報の提供受けについては、教育訓練研究本部ホームページ(http://www.mod.go.jp/gsdf/tercom/index.html)において行っている。
引き続き教育訓練研究本部は、陸上自衛隊における教育、研究開発、教訓・訓練評価業務の中核組織として、長期的な戦略情勢や科学技術の動向を見据えながら、日米共同、統合及び陸上戦闘に関するコンセプト、ドクトリンを開発するとともに、教育・訓練を革新し、将来にわたる陸上防衛力の充実に寄与していく。
サポート必須
パネルディスカッションでは、「将来の陸自のAI利用の方向性」を議題にAI(artificial-intelligence=人工知能)がもたらす可能性などについて、4人が議論を交わした。
オンライン参加したハドソン研究所研究員の高木耕一郎1陸佐は、「人工知能を巡る米中の戦い」について発表。「人工知能の軍事利用を巡る4つの論点」として、(1)情報処理能力の向上(2)無人兵器の利用(3)迅速な意思決定(4)「認知戦」への利用ーーを挙げ、特に(2)〜(4)での米中の差異について述べた。
このうち、(2)無人兵器の利用については、致死型を含む兵器について中国は完全な「自律化」、「スウォーム攻撃」に注目しており、米国も従来のAI利用上の倫理面の強調から、軍事的な必要性に基づき兵器の自律化を促進する旨の姿勢変換について令和5年1月下旬に米国防総省が発表したガイドラインを根拠に指摘した。
「人工知能を巡る戦いと半導体規制」について、米国の半導体規制が中国の軍事力増強(智能化)に影響を与える可能性があるものの長期的な展望は不透明とも結論付けた。
また、「戦勝を獲得するにあたり、技術そのものが最新である必要はない」とも強調。技術で劣りながら勝利した欧州の過去の戦いの例を挙げ、「技術のみに注目することは適切ではなく、革新的な戦い方の創造を総合的に行う」必要性を強調した。
防衛装備庁プロジェクト管理部の装備技術官、青木圭1陸佐は「人工知能(AI)の陸自装備への実装に係る一考察」と題し発表。
将来の陸上防衛力整備に係るキーワード(遠方早期、自律分散など3項目)、並びにウクライナ侵攻を受けたトレンド予想から、「不確実な複雑系での同時制御」の必要性を説明。
陸上戦闘では機能、能力の異なる多種多数のアセット(装備品など)の行動を同時に決定・提示していくことが必要で、「相当に不確実、複雑な状況下で同時に多種多数のアセットを適切に制御していくのは人手では不可能であり、AIのサポートが必須」と語った。
ディスカッションでは、参加者を交えAI導入の方向性、導入分野、人材育成等の幅広い分野について討議が行われ、特に高い専門的知見を有する青木1佐及び川岸3佐からAI分野の最新動向を捉えた現実的な解決策が提示された。
絆回復に全力
本部長
廣惠教育訓練研究本部長は閉会あいさつで、「本日は陸上自衛隊の戦力化プロセス、将来の戦い方を紹介し、また、部隊実験で使い、将来、陸上自衛隊で使えるであろう民生技術のご提案もお願いした。ぜひともご協力をいただきたい。現役自衛官が企業の皆様の前でライブでパネルディスカッションを行ったのは、おそらく史上初めてではないか。ぜひご意見も賜りたい。コロナ禍の3年間で自衛官と企業の皆様との絆が希薄になったことが一番残念。失われたものを回復すべく努力を続けてまいりたい」と述べた。 |