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自衛隊ニュース   883号 (2014年5月15日発行)
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ベトナムとの古き友情の下に
空自初の能力構築支援に参加して
航空安全管理隊教育研究部(東立川) 中村 鋭介2空佐
 防衛省では、他国との防衛交流の一環として、その国の能力向上を支援する事業(能力構築支援)を実施している。空自では、ベトナム国からの要請に基づき、救難や航空医学に先立って、昨年9月、首都ハノイで「飛行安全セミナー」を実施することになった。派遣要員としては、内局・空幕の要員とともに、航空安全管理隊が飛行安全と航空事故調査の教育を行っているとの関係から、課程教育科長の私ともう2名が、講師として参加した。講義においては、ベトナムは組織や制度が異なり、ロシア製の装備品を扱う等、日本と安全の制度・基準の面でさまざま異なる点があったため、講義開始早々、想定外の質問攻めに遭った。また、航空事故に関する講義では、自分達のパイロットとしての経験に照らし合わせ、真の事故原因は他にもあるのではないかと考えているのか、ややもすると日本は本当のことを教えるつもりはないのかとの不信感も感じ取れた。説明の言葉や表現を換え、通訳を通じて、懸命に応答しつつ、より丁寧な説明が求められる場合は、国際電話で日本に細部を確認して回答する一幕もあった。
 このように日本側が総力を結集し、懸命かつ真摯に対応し続けた姿勢により、彼らの信頼をかち取ることができた。その日の夕食会で知ったことだが、彼らは、数ある国の中でも日本から学びたいとの気持ちが非常に強く、日本が国際社会で毅然と主張している姿が手本であり、憧れであると想っており、日本に対する大きな期待がそうさせていたことがわかった。
 私の講義の中で、東日本大震災に伴う津波被害の甚大さは、津波自体の大きさに加え、迫りくる津波の潜在的危険性を人々が正常に認識できなかったことの影響もあると説明した。津波に関する過去の教訓や警鐘、対策(石碑、避難訓練、防潮堤、防災無線)があっても、過去の津波の記憶が薄れ、津波の被害がないことに慣れ、誰もが持つ「大丈夫だ」という心理などが避難の遅れにつながったのである。人の特性を考慮した対策が、どの国においても共通する安全上の課題であると総括した。
 帰国便出発までの時間で革命博物館を見学した。この博物館はベトナムの抵抗と独立の苦難を展示している博物館で、日本人の私達は直視できない展示があるものと覚悟していたが、『仏印戦争で仏軍と戦う日越同盟軍』というパネルが展示されていることに驚いた。先の終戦処理をベトナムで迎えた旧陸軍飛行第六十四戦隊長の遺稿によると、終戦の後も日本人に対する現地の人々の感情は悪くなく、「われわれの独立達成のために手を貸してほしい」との勧誘を受け、多数の旧陸軍将兵が祖国日本に帰国せず、戦闘に参加したとされる。このような先達の気持ちを推し量るにつけ、古くからの友人で未来志向を持つベトナムの人々との係わりを、大事にしていきたいという想いを強くして、帰国の途についた。

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