防衛ホーム新聞社・自衛隊ニュース
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自衛隊ニュース   2008年4月15日号
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《論陣》
深刻な介護の現場
待遇面の改善が必要不可欠
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 介護福祉士養成の専門学校をご存知だろうか。介護を必要とする重度の身体障害者や寝たきりのお年寄りには、この介護福祉士の支えが不可欠である。まことに崇高な仕事であるのだから、看護師と同様に介護福祉師とすべきだろう。現在、待遇の悪化から養成学校も生徒難、福祉現場でも若手不在で深刻な事態に追い込まれている。
 筆者は千葉県でも有数の介護福祉士の養成学校「中央介護福祉専門学校」で、年数回「人間科学論」なる不思議な科目を教えている。多くの学生は真面目ですばらしい。どうしてかというと、昨今の少子化で誰でも大学に入れる。本来であれば、中学校を卒業して腕に磨きをかけて社会に飛び立つことのほうがよほど好ましいはずの少年でも、大学の門をくぐり、無駄な時間と覚えなくてもいいことを学んでいる。
 本人や家庭・社会の損失であるが、そんな中、介護という人の命を支えるという崇高な職業を選択する若者だから両手を合わせたくなる。しかし、ごく一部の生徒の中には「適格性」に問題な若者もいないではない。2年間で自動的に資格を有する介護福祉士という事情を考慮すると、それなりに心配になってしまう。
 筆者のいう不適格とは、思いやり・優しさなど人間性に欠けるものを指している。彼らが資格を取り、現場に立つと事件や事故を引き起こしかねない。ここをどうするのか。ここを解決することが、本当の教育でなければならない。1年かけて特別指導してもダメであれば、そのときは本人のために退学・転進させる勇気を学校は持つべきである。
 他方で、国民から年金その他で指弾を受けている厚生労働省は「試験」で振り分けようと準備している。これは本末転倒である。新たな天下り先確保とこれまた指弾を受けるであろう。やめたほうがいい。能力・技能よりも人間性が重視される職業だから、見方によれば天下り役人よりも、彼らのほうが数倍立派なのだから。
 先般、この学校で講師研修会が行われたさい、以上のような趣旨を発言したのだが、他の講師からは「介護福祉士の待遇改善が何よりも大事」との指摘を受けた。筆者の自宅も介護福祉士の訪問を受けている。そういえば、若者が少ない。ヘルパー、それも年配が目立つ。
 「中には月収7万円というところもある」というのである。10万円以下では、2年間大金の授業料を払って手にした資格が泣いてしまうだろう。仕事の中身はすばらしい、に尽きるのだから。
 その後に茨城県鹿島市と東京都東村山市で大掛かりな医療・福祉施設を有する社会福祉法人「白十字会」の評議員会に参加した。さっそく介護福祉士の待遇を尋ねてみた。
 「初任給は東京が13万円、茨城が12万円程度」との役員から回答を得た。いずれも10万円を超えていたので、多少は安堵した。関係者に問い合わせると「月給20万円も取るものは休日がない」という厳しい話も聞いた。待遇の悪さから、せっかく資格をとっても介護福祉士にならない若者も多いらしい。
 崇高な職業に対する待遇について問題があるというのは、どうやら事実のようである。コムスン事件は別の面で問題を大きくしたが、介護の価値・重要性が下がることはない。ますます重要度が増してくる。景気後退を口実に福祉政策を低下させたら、介護制度そのものが崩壊しかねないだろう。
 先日、筆者の誘いに北京の友人が応じてきた。「ぜひとも介護福祉士養成学校を見学したい」というので、中央介護福祉専門学校を案内した。土岐理事長と平山教務主任が懇切丁寧に施設を案内してくれた。中国もまた、すさまじい速度で老人社会に突入している。それでいて介護福祉士不在である。
 「日本に留学させたい。いずれ中国にも養成学校を作らねばならない」と友人は語っていた。こうした留学生に便宜を図る日本政府でなければなるまい。この機会に、福祉と医療の分離を改める時期に来ている、ということも指摘しておきたい。


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