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   2004年11月1日号
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迫力、全面協力
陸「戦国自衛隊」海空「亡国のイージス」
 2005年はミリタリー映画ルネサンス──。「現代救出物語は自衛隊のバックアップのおかげ」(戦国自衛隊1549・鍋島プロデューサー)、「本物の装備品は迫力が違う。編集作業が今から楽しみ」(手塚監督)。「働く隊員の姿が人間ドラマに生きる」(亡国のイージス・阪本監督)。撮影現場は活気に満ちている。作家・福井晴敏氏が原作の軍事映画「戦国自衛隊 1549」(角川)「亡国のイージス」(日本ヘラルド)「ローレライ」(東宝)の3作が、来年の公開に向け前進中である。“戦国”と“イージス”は自衛隊の全面協力がウリだ。「ゴジラ」(東宝)始め「ウルトラマンネクスト」(円谷)、「仮面ライダー剣」(東映)…。従来も好評だった自衛隊による撮影支援は、ここにきて大ブレイクの様相を見せる。全面協力が新時代の映像を切り拓くロケ地を追った。
東富士演習場は報道陣までタイムスリップしたかのよう
 もし戦国時代に部隊がタイムスリップしたら。あなたは仲間と共に生き残れますか──。26年前のヒット作「戦国自衛隊」の奇抜な発想が、作家・福井晴敏の才能で書き下ろされ、角川グループ創立60周年記念作品「戦国自衛隊 1549」として復活する。手塚昌明監督。主演は江口洋介、共演は鈴木京香、鹿賀丈史。陸自の全面協力で、実物の90式戦車、攻撃ヘリAH−1Sなどが登場。9月25日にクランクインし、来年6月の公開に向け撮影は順調だ。メインキャストを集めた1シーンを東富士演習場に取材。魅力の一端と、全面協力の反響を見た。(10月18日)

 装輪装甲車にエンジンが入る。馬のいななきと甲冑の音。「よーい、本番!」。出演俳優のほか、騎馬や雑兵エキストラ約60人の隊列に87式偵察警戒車、96式装輪装甲車など車両が続く。甲冑の運転手は自衛官だ。公開されたこのシーンは、専守防衛に誇りを持ち仲間の救助のため武装解除された自衛官が城内に連行される場面。午前から午後に撮影は続いた。
 映画は的場1佐(鹿賀丈史)の部隊がタイムスリップする場面に始まり、鹿島(江口洋介)や神崎(鈴木京香)が救出のために戦国時代へ向かう。しかし的場は織田信長になり代わり歴史を変えようとしていた。はたして主人公たちは戦国を生き残り仲間を救出できるのか。(写真=黒子は本職の陸自隊員)

【協力する隊員たちの汗】
 爆音が響きわたる。東富士演習場内では、その日も舞台が演習中だった。総工費2・2億円の「天母城(あんもじょう)」巨大オープンセットに戦場の趣きが漂う。
 「連日の雨ざらしで土地がならされ、城もちょうどいい味が出てきた」と美術監督の清水氏。7月末の測量から40日、のべ1200人で完成した。
城門で車両を移動するのはもちろん本職の自衛官。富士学校の担当隊員が軽快にさばき駐停車、次のカットに備える。撮影スタッフと常に綿密な連携をとり自衛官らしいきびきびとした動きで現場を支えていた。自衛官が甲冑姿なら、出演俳優は戦闘服姿だ。「わたしは自衛官ですよ」と襟元を指差して笑うのは広報官。

【前作とはここが違う】
「23歳の時に前作を見て戦国武将と自衛官の友情に感銘。実際に自衛隊が協力してくれればさらに素晴らしいリメイクも、と思っていた。全面協力のもとに撮影できて光栄」と手塚監督。「リアルなSFを意識しており、仲間の救出に“実弾を使用していいのか”と隊員たちが悩む場面も作中にあります」。
「自衛隊との関係は、お互いにいい方向に動いていると認識している。すべてが自前だった79年の前作と比べて、予算面でも大助かりです」と鍋島プロデューサー。「特に富士学校や陸幕の方には協力いただき連日感謝しています」と話す。
 また、安全上の指導は行き届いているが「注文が多いという印象はない」「ストーリーも比較的理解を得ており、きわめてスムースに協力いただけている」と現状を説明。また、自衛隊の広報活動とタイアップの有利に触れ、今後とも力強い関係維持に前向きだ。
 素材を通して「“友情”を若い人にアピールしたい」。鍋島氏は続ける。「イージスとローレライとの相乗効果は結果論。時代の後押しもありますし関心は惹くでしょう」としながら、「日本固有の事情だからこそ作れる作品。外国では作れない“戦国自衛隊”の五文字に自信はあります」意気込む。

【公開は来年6月】
 ミニ会見では出演者と原作者から、自衛隊に対する率直な印象やこれまで以上の親近感が聞かれた。
 「フィクションで終止できない時代に、日本にとって自衛隊とは何だろうという問いがある。戦わざるを得ない戦国時代を舞台に、SFという形で戯画化し世に問いたい」とは原作の福井氏。また「自分からは撃たないという誇り高い専守防衛の集団が戦国に放り込まれてどうサバイバルするか。書くことが今の日本を描くことになる。浮ついたものは作らない」と志を語った。
 主役の江口洋介氏は、日夜過酷な訓練をする自衛官に驚き、また夜間訓練の音をロケ中に聞いて以来、大変さを痛感し尊敬するようになったという。「迷彩服は街中で着るのもいいが、林の中でこそ映えるものですね」と実感を述べた。
 「仲間も本物の自衛官も優しくしてくださるので、特に苦労はありません」とはヒロイン役の鈴木京香さん。「女性自衛官は目的意識がありピシッとしていて、さらに現場を和ませる能力にも長けているので感心した。少しでも女性自衛官を目指す女の子が増えるよう誠心誠意がんばりたい」とし、「自衛隊の協力に感謝し、しっかりと応えていきたい」と抱負を述べた。
 鹿賀丈史氏は「自分が演じるのは日本を思うがゆえの狂気の役。自負してやりたいと思う」と熱意を語り「戦国の自衛官として生き抜く姿と意思で、大きく演じたい」としながら「規律の中で暮らす自衛官はすごいなと尊敬しっぱなし。装備品も本物の重量感はすごい」と自衛隊への敬慕を語った。

映画オープンセット公開
 あの小説を映画化できるとは──。58万部を超える長編海洋アクションのベストセラー「亡国のイージス」の映像化も順調に進んでいる。沖縄の米軍基地から化学兵器を奪い、東京湾のイージス艦「いそかぜ」を占拠した対日工作員・ヨンファ(中井貴一)。首都を人質に政府に要求を突きつける。戦後最大の危機をめぐり死闘する先任伍長・仙石(真田広之)、情報局員・渥美(佐藤浩市)、いそかぜ副長・宮津(寺尾聰)。12時間後に首都壊滅か──。壮絶な戦いの末にあるべき国家の理想をリアルにえぐり出す。監督は人間ドラマの名手・阪本順治氏。不可能を可能にしたのは、海自と空自の全面協力にほかならない。壮大なストーリーに挑戦するオープンセットを訪問。支えあう信頼関係が人間ドラマを生み出す現場をレポートする。(10月23日)

 静かな御前崎の海岸に突き出た鉄の要塞。あれは何だ、と群集が遠巻く。
「海保のヘリも当初は上空を飛び回っていました」とプロデューサー。オープンセットは芸の細かさが自慢だ。細かく再現できたのは海自のおかげ。「ここは強風が吹くためしっかりと基礎を固めて作った」。
ミキサー車で480杯分のコンクリートを盛り上げて土台とし、その上に38メートルのイージス艦が海岸の地面から生えたようにしてそびえ立つ。海を背に撮影すれば、さながら洋上の甲板だ。本物のイージス艦48メートルにも引けは取らない。費用は3億円。工期は5ヶ月ジャストを要した。日に5000万円の撮影が連日続く。

【海自、信頼のタイアップ】
細かい装備品の一部は海自が貸しており、解体後に返却される予定だ。だが、大部分の装備品を美術スタッフが独自に再現していた。乗員名簿や浮き輪、計器類など。全面協力の成果が発揮され、実に芸が細かい。艦の塗装色にもぬかりはない。「いそかぜ」セットで撮影の爆破シーン、戦闘シーンなどは、実物のイージス艦「きりしま」での艦上・艦内撮影とあわせて編集され、完成映像となる。リアリティは無比のものとなるだろう。本職の艦上要員でさえ見分けがつかないかもしれない。
11月中旬からいよいよ特撮と空撮に入る。公開は来年の夏休みが予定される。

【阪本監督、自衛官の人間味を】
“戦国”が「ロマン」なら、“イージス”は「リアル」にこだわりを見せる。極力CGを排して「手で動かす」「特撮で見せる」リアルなミリタリーがウリのひとつだ。しかし、監督の本音は意外なところにあった。
「人間ドラマこそ重要なんです。まずは自衛隊の話。彼等が何を守るか、架空のシチュエーションなだけに、地に足の着いた人間作品として作らないと比重がミリタリーに偏りすぎてしまう。私たちの生活に関係がなくなっては意味がない」と阪本監督は打ち明ける。その上で、「実際の自衛官を見て交流した意味は大きい」とも。
初めて会った海自隊員からは「若い人、ベテラン、ともに船乗りの匂いがした。ニュースイメージと違い、実際は暖かさと人間性のある同じ人間。ただし使命感の重さに違いを感じ、尊敬します」と印象を語った。
「ニュートラルかつ、浮世離れせず、家族ある今どきの人物として描きたい。そういう膨らみのあるアクション演技が可能な役者を選びました」。アカデミー俳優が集結した厚みある作品象をアピールした。(入船浩之)

【空自、迫力のF─2支援】
暴走した”無敵の盾”に挑むのは主人公・仙石先任伍長(真田)はじめ海自隊員だけではない。空自隊員もまた国難を救うべく死闘を繰り広げる。空自パイロット役の真木蔵人がF─2で三沢を離陸、いそかぜ撃沈に向かう。
この場面はすでに8月中旬、三沢基地で撮影済みだ。戦闘機の飛行シーン、パイロットの台詞、交信内容を空自が支援した。過去にない迫力の仕上がり、監督もプロデューサーもご満悦のうちに無事撮影を終えている。最新鋭戦闘機・F−2は映画に初登場となる。
撮影では装備品も本物を貸与し、すべて実物が使われた。三沢基地の飛行群、警備補給群、基地業務群の空自隊員が、綿密なやり取りと本物ならではのアドバイスで支援。完成度に大きく貢献した。
基地エプロンでの地上撮影、さらに飛行シーンのために2機のF−2を飛ばし、高度4000メートルでの空撮と離着陸シーンの撮影協力も当然初めて。
F−2の操縦を担当した近藤昭尚3空佐、柴田雄介1空尉が、日ごろの訓練成果の一端を披露。余裕の一発OKとなった。

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